ちょうかんはせんじょうへいった〔rusty milkに捧げます〕
※読み手さんによっては少々グロ要素かもしれません。ご留意ください。
ちょうかんはせんじょうへいった 上
そのころあのひとは、私との将来を夢見ながら、こつこつと、酪農にいそしんでいたのです。
大牧場主のノウが私に横恋慕仕掛けてきても、一歩も引きませんでした。
けれどノウは卑怯にも、地域徴兵目標達成にかこつけて、ナイゾウ戦線の戦いに、あのひとを送り込んでしまった。
ちょうどノーベルがダイナマイトを発明したころで、あのひとは大爆発に巻き込まれ、大変なけがを負ってしまいました。
たいがい軍人の大怪我というのは、手足を吹っ飛ばされたり、内臓をもってかれたりなのですが、あのひとのけがはもう、みるに耐えない惨状でした。
私は絶望しました。
ちょうかんはせんじょうへいった 下
よくあるけがは腸管ふっとばされて人工肛門になるのが兵士の常ですが、私は全身ふっとばされて、腸管だけが残ってしまったのでした。
腸管だけで生き延びられるわけがない!
軍医たちが口々に言う中、私はなぜか生き延び、あろうことか再び成長していったのでした。
ただ・・・
残存部位が残存部位なので、盛り上がる肉も臓物ふうのピンクになってしまう。
私は腸管人間になってしまったのです。
きついリハビリにも耐え、半年後には一般兵並みの技術・体力で、部隊を勝利に導いたりもしました。
評価され、昇進し、ついに休暇も獲得。
私は故郷へ帰ったのでした。
が。
そこには悲しい現実が待っていたのです。
恋人はノウの妻になっていました。
大牧場主の妻。
大牧場の奥様です。
私のささやかな農場も、大牧場に併合されてしまっていた上、二人には子もありました。
ノウにそっくりなそのこども、小ノウとでも呼びたくなるようなそのこどもは、林から出ようか出まいか逡巡していたわたしを見つけ、指差して叫んだのです。
ピンクのおばけがいるよ!
ピンクのおばけがいるよ!
私は走って逃げました。
頭が割れそうでした。
私はなぜ、のこのこと、ここに戻ってきてしまったのか。
恋も農場も未来までも、そっくり失ってしまっているのに、私だけが気づいていなかったのです。
でも。
林のはずれには、私の小隊の連中がいました。
腸管腸管、会ってきた?
みんな喜んだでしょ?
この際除隊しちゃう?おれいやだけど。
もっともっとしごいてよ。
おれらちゃんとした兵隊になるからさ!
新兵たちの輝く瞳をみているうちに、私の心は癒えました。
こいつらのうちのたったひとりでも敵の手に奪われたりころされたりしたら、私はもう、永劫に、自分を許せなくなるでしょう。
だから・・・・
私はこうして鬼軍曹になりました。
腸管腸管呼ばれてますが、階級はやっと伍長です。
去年からです。
※ ダルトン・トランボの小説・映画『ジョニーは戦場へ行った』(日本での映画公開は1973年)のモチーフに、あえてオマージュさせていただきました
#『腸管』スピンオフ・戦地へ向かう13年前のチーズ農家だった頃の腸管のお話
↓これがrusty milkのモトホン↓
ちなみに『腸管』なんてケッタイなテーマよこしたのはヒスイ嬢であります!
それでも地球は回っている