形見〔沙々良まど夏さんの歌にインスパイアされました〕

教会葬は厳かだけど、カトリックじゃない私には、なんか映画のワンシーンみたいで、ただただかっこよかった。
自転車競技やってたせいで、弔問の人も自転車関係者が多かった。
虚弱体質の私には、絶対許可が下りなかったスポーツ。
えみとなながいつもあなたに伴走してた。
羨ましかった。

色とりどりのお花に囲まれて、眠ってるとしか見えないあなた。
偏光グラスもいくつか、あなたと一緒に行くのだ。

はるか!
はるか!

行かないでよ!

私たちを置いていかないでよう!!

泣き崩れるななたちが憎い。
ずっとずっと一緒だったくせに!
私には、一緒に走った時間すらないのに!

私は棺から、それを一つ取って、喪服の袖に隠した。

誰にも気づかれないように、みんなより先に車で出た。
みんな取り乱していて、私が自分で運転して来てたことにも気づいてない。
そう。
私は運転できる。
はるかが教えてくれたから。

自転車は止まると倒れるけど、自動車は倒れないから。
自動運転もかなり普及してる。
これならまりも大丈夫だから。

でもはるか。
免許は取らせてもらえなかった。
まりには無理。
まりはだめ。
無茶しないで、言わないで!
それが家族の一方的な要求。
少しはなんかさせてやりなよ。
あなただけが私の行動意欲を擁護してくれた。
あなたがいない世界はもう、私に何もさせてくれない世界。
私は一人でそこで生きるの?
一人で?

涙で視界が濡れる。
ワイパーを使っても、世界の雨はやまない。
対向車のヘッドライトが眩しい。
ああ。
あれがある。
偏光グラス・・・

眩しさは減ったけど、スマホもナビも見えない。
心の雨は降り続いている。
見えなくていい。
見たくない。
私は自動運転のサポートを切った。
はるか。
一緒に行かせて。
車はどこともしれない山中に入る。
そのうち道がなくなって、私は山間に投げ出される。
そしたらはるか。
迎えに来てくれるよね。
来てくれるよね。

来てくれるよね。

逆光と液晶見えぬサングラス
    逢魔が時へハンドルを切る


※ 歌はまど夏さんのオリジナルです

それでも地球は回っている