優しさって…


記事、

目線を隔てなく。#やさしさに触れて
https://note.com/oriasa82

で、織田麻さんがお書きになっていた、心に残る上司。
実は私も二人持っている。


一人は制作会社の事務をしていた時の直属の上司で、そこを去ってから、なんと声優さんの事務所~それも超大手~の大物になったそうだ。
その方に言われたのは、

プロデューサー三人知ってれば何とか食っていける

というもの。
テレビ番組の制作費の請求書を、一桁間違えて書くような私を、我慢して二年も使ってくださり、後半は他社のアニメのシナリオを、その社の自分のデスクで書くことすら黙認してくださっていた…


もうおひとかたはレコード会社のディレクターさん。
タイトルを言えばああ!と誰でもわかるレコード大賞曲のレコーディングにも立ち会ったようなかたで、その歌入れは2テイク録ったのだという。

曲想ピッタシ一音の外れもない

テイクと、

音の外れは多少あったが、艶やかで魅力的な

テイク。
ディレクター氏は迷わず2テイクめを採用し、上司にもそう伝え、上司のかたもその選択を承認したという。
結果的にそれがレコード大賞となった…


このディレクター氏に、私は泣いて電話したことがある。

主題歌の作詞を某プロデューサーに、あーでもないこーでもない、都合七回も直しを出され、まだ直せと言われています。
私もう、これ以上出来ません。

ご自宅で、奥様に取り次いでいただいた電話での、女作詞家の泣きごと。
ディレクター氏は黙って聞いていてくれた。
そのプロデューサーが、*ラえもんの静の入浴シーンを大幅に増やした張本人であり、私にキックバックしないかと持ちかけるような奴だったことは誰でも知っていた。
七回の直しはそれを断った私への、報復であることも見え見えだったのだ。
ディレクターは黙って私の泣き声をしばらく聞いていた。
そしてこう言った。

話はわかった。
もう一回だけ直してあげなさい。
後は俺が見てるから。


後は俺が見てるから。


この一言がなかったら、私はきっとオリてしまっていたと思う。

言われるままに、もうひと直しして提出すると、キックバック男は鷹揚に頷いた。

よくなったじゃん!

私はぐっと拳を握って耐えた。


直属上司の言ったことは一面真実で、一面真実ではなかったと思う。
三人以上プロデューサーを知っていても、私は落ちこぼれて行ったから。

レコーディングディレクターは実際戦ってくれたかどうかはわからない。

でもその一言が確実に、私を最終行程まで行かせてくれ、その曲は今でも私に、ささやかながらも印税を与えてくれている。
彼が現役を退くともに、私も作詞の現場から離れてしまった。
(後任のかたとは残念ながら合わなかった。)
このお二人が私の恩人である。
師匠はまた別にいる。


追記

ディレクター氏のレコード大賞レコーディングの逸話を熱くなって語った私に、上司は冷静にこう言った。

曲想ピッタシ一音の外れもない、艶やかで魅力的なテイク。
3テイクめで録れなかったのかしらね。


どっちも大事な上司ではあるが、両者はけっこう合わなそうだと、私はこのとき強く思った(笑)。


それでも地球は回っている