窓格子〔さくらいさくらさんへのお礼作です。大したことはないと思いますが、一応さちピコードとしておきます〕

台所の窓は、私道に面している。
すりガラスの向こう、窓格子の間にぶら下げてるニセ虫コナーズ(CMで言うところの、虫コナーズ的なもの)の期限が切れていることに、食器を洗いながら気づいた。
予備はある。
取り替えるのは朝でいい、と思いつつ、明日は朝早いことを思い出す。
今変えるか・・・
なに、別に理由があるわけではないのだ。
ただ・・・

闇の中に手を延べて、ニセ虫コナーズのフックを外すのがちょっとだけ・・・気鬱なだけ。
何もないとわかっていても、闇に手を伸ばすのは気味悪い。
手早く古いニセを取り、新しいのを同じところに付けた。
完了。
すりガラスの向こうに闇を押しやって、さっさと掛けがねをかけてしまえ私。
手を引っ込めようとしたまさにその瞬間だった、冷たい白い手がいきなりきゅっと私の手首を掴んだのは。
白いけれどシミだらけで骨張った、枯れ木のように痩せ衰えた手。
その向こうにはざんばら髪の老婆がいた。
深い陥穽のような昏い瞳の主が、汚い歯を見せてにまっと嗤ったところまでは覚えている。
気づくと私は台所に倒れていて。
すっかり朝になっていた。

振りほどこうとめちゃめちゃに腕を振ったためだろう、私の腕は窓格子にバンバン当たって痣だらけだった。
かろうじて振りほどけたを幸い、一気にすりガラスを閉めて施錠した、そういう記憶だ。
でもそれだけなら、何で私は朝まで意識を失っていたのだろう。

そして痣だらけの腕よりも、気になるのは手首だ。
ここの痣だけおかしい。
誰かに握られたようになっている。
そしてこの日以来、我が家には、見知らぬ誰かがいる気がしてならないのだ。


それでも地球は回っている