若造〔読み物100〕
なんや誰でも口を開けば芭蕉芭蕉って。
果ては版元までこうだ
蕪村先生の蕪ぅは、芭蕉先生の蕉とよう似てまんなー
関係ないやろ!
牡丹散るうちかさなりて二三弁
風情あるやろ!
わいはこれでええんや!
怒鳴り散らしながらふと気づくと、来たこともない古刹の前やった。
脇にこまい古池あって、道行姿の老人が佇んでどられる。
静謐だ。
ご老人も上品で。
なんだか身動きできなくて、そのまま立ち尽くしていると、ポチャンと池に蛙が跳び入った。
古池や蛙飛び込む水の音
読んで短冊型の色紙に揮毫する。
達筆だ。
何より句がいい。
森閑と、広がる水紋、かそけき音。
あ、でもこの句・・・
目をあげると、ご老人はもうおらんかった。
松尾芭蕉。
わいよりかなり前の御仁。
わびさびかろみ。
様々の趣を見いだしつくした先人。
動き・・・
牡丹散ってうちかさなりぬ二三弁
ええなあこれ。
一皮剥けましたなあ。
版元のべた褒め。
ご老体に教わったと、口滑らしそうなって、危ういところでやめた。
誰も絶対信じーひんわ。
それでも地球は回っている