惨(ざん)の記②

不思議


不思議だ。
大と居ても、股間は凝(しこ)らぬ。
でも頼朝妻殿とか、侍女とか下女を、盗み見る時には凝るのだ。
夜半に怪しい夢見るときも、朝方それが屹立するときも、乗馬の途中も時々なる。
気味が悪い。
吾のそれはどうなってしまったのだ。
怪しい病気なのではあるまいか?

そうではない。
少し年かさの重隆が、吾と幸氏に説明する。

凝ったり、剥けたりすることによって、おまえらも一人前の男になるのだ。

一人前って。
無礼だろう。
吾らすでに元服しおり、とうに一人前…

言い張る吾をまじまじと見、重隆がぶふっと噴いた。
そのままげらげら笑い続けた。


大人になるということは、その先から、小水以外の白いものが飛び出ることなのだげな。
その白いものは腥く、栗の花のような匂いがするんだと。
そんなもん、出ない方がいいなあと幸氏は言い、吾も声にはしないだけで、内心おんなじようなことを考えていた。

擦ったら、出るらしい。

どこを。

竿を。

うわーー。

興味はあるが気味も悪い。
いったいどうなれば大人なのだ。

触りっこしてみるか。

触…
やだー。
これから幸氏の顔見れなくなっちまう。
そんなこんな考えながら女館(をんなやかた)の庭先を通りかかる。
藤棚の下で大が人形とままごとをしていた。

殿。
こちらをお召し上がりください。
好き嫌いはいけません。
青菜も魚もちゃんと召し上がらねば。

ちょっと噴く。
それでは妻(さい)ではなく、母御ではないか。
それでも甲斐甲斐しく世話を焼いている。
こなたに気づかぬほど、一心に。
かわいいと、思った。


夢を見た。
かわいい妻。
嫁。
大。
顔とかのない、曖昧模糊とした夢。
何やら寄り来るその偽の大に、もやもやと、そこが凝ったかと思うと、

あっ!


白いのが。


出ていた。


何となく、大の顔が見れぬ。
かわいいと思っておるのに、それをうまく伝えれぬ。
いきおい避ける感じとなって、幸氏らとばかり遊んでおる。
見かけると、逃げてしまう。
かわいいと、思っておるのに…


馬駆けして、一汗かいて、井戸際でからだを洗っておったらあずまやのほうから声がする。
ちらとみゆれば、頼朝妻殿と大だった。
何となく隠れる。
二人は吾に気づかぬまま、会話を重ねていた。

あにさまが、意地悪と?

大がこっくり頷く。(それだけでめちゃめちゃかわゆい。)

左様だろうか。
母には、とても仲よう見えますが?

妾が行くと逃げてしまいます。
どこででもそうです。
妾のこと、きっとお嫌いです。

大の瞳から大粒の涙が転がり落つる。
美しい真珠の涙だ。
吾はなんだかどきどきする。
大。
大。
吾は…

それでも地球は回っている