悪魔

幸せになりたかった。
だから悪魔と契約した。
初子(ういご)と交換の幸せ。
その日から、私の人生は一変した。
すらりとしたプロポーション。
食べても全然太らないからだ。
私は超人気のモデルになっていた。
個性的と称される容貌。
ほんとは美貌でも何でもないのに、魔法の力だろう、私は美しいとほめそやされ続けている。
どんなパーティーも、どんな美食も私を満たさない。
評価されているのに、心は空っぽだ。
いつもつまらなそうだね。
あるパーティーで声をかけてきたのはイケメンの御曹司。
楽しそうだね、幸せそうだねと言われなれていた私は戸惑い、そいつに瞬時に恋した。

玉の輿。
かもしれないけど、私はひたすら不安だった。
心を込めて料理しても、家政婦さんたち指揮して、屋敷じゅうきれいにしてみても、本当の自分じゃない気分は拭えなくて。
そうこうするうちに私妊娠した。
そして思い出した。
初子をあげるって。
悪魔に…

悪魔はいる?
悪魔はいない?
私の成功は実力?
魔力?
恋は?
結婚は?

この子どもたちは……………


たち。

そうなのだ。
子どもは双子だった。
最初から一人だったと思えばねえ。
私は気持ちが楽になった。
一人は死産。
しょうがない。

極力気楽に考えた。

けど、いきんで、いきんで、最後には、お医者が私の上に乗ってまでして押し出された二人は、かわいくてかわいくて、どっちか一人なんて考えられない。
どうしよう。
どうしよう。
逃げよう。
子供たちを抱いて、病院を抜け出した私は、折しも見舞いにくるところだった夫、御曹司様にばったり会ってしまった。

どこ行くの?

問われた私はその場に崩れ落ちた。

夫婦の部屋。
真新しいベビーベッド。
すやすやと二つの命。
夫は私にホットミルクを作ってくれた。
私は夫に秘密を打ち明けた。
悪魔との契約。
成功と代償。
どちらか一人を渡さなきゃだけど出来ない。
逃げたい。
あなたも一緒に逃げて。
親子四人なら、きっとどこででも暮らせる…
と言いかけたとき、私の世界はぐにゃりと曲がった。
歪んだ夫が言う。
約束を守るだけでよかったのに。
そしたらずっと一緒にいられたのに。

ああ。
夫こそが。
そうだったのか…

はっとする。
鏡の中には見映えのしない自分。
誰も見返ってくれない自分。
でも都市伝説で聞いたのだ。
13枚目の合わせ鏡の中にかれがいる。
みつけられたら、どんな願いもかなえてくれる。
ちょっとした、ほんとにちょっとした代償で…

鏡の角度を調整する。
13枚目の鏡の中にかれがいる。
知ってるヒトみたいな気がするのはなぜだろう。
続ける?
やめる?
いま、かれがこっちを正視する。
少し悲しげにほほえんで、こちらへ出てくる。
今度はどうかな?
そんな囁きが聞こえた気がしたけど、それはたぶん空耳。 
私は幸せになりたい。
幸せになりたいだけなの。


それでも地球は回っている