風に向かう〔じゅんみはさんと父君と、弱ペダファンに捧げます。あのインハイの数年前。福富家親兄弟設定は捏造です。二次創作ですので例によって、ご内聞に・・・(^^;)〕
サーヴェロで坂を下る。
しまった。
この時間だと追い風だ。
楽しちまう。
まあマシンコントロールの一環とおもえばいいか。
江ノ島方向一気に下りて、神社参って参道で食って・・・
あ、だめだ。
戻りは風向き逆になる。
帰りも追い風・・・
ビアンキが来る。
逆風最大に利用して、自分の走りを磨いてる。
向こうも気づいた。
新開!
俺の真横でターンした。
戻りか。
さすがだな。
俺今起きた。
追い風ありがとうタイムまっただなかだ。
それもいい。
マシンコントロールの練習になる。
さすが寿一。
物事の捉え方に無駄がない。
せっかくここで遭ったんだ。
もう一往復するかな。
おいおい。
それじゃトレーニング過剰・・・
言いかけた時だった。
新開君!
声をかけてきたのは福一さん。
神奈川県自転車競技連盟代表理事にして、福富家当主。
寿一のオヤジさん・・・
連れ立ってるのは徳にいさん、寿一の兄貴にして、日本を代表するオールラウンダー、福富徳一。
福一さんの自慢の息・・・子・・・
いけない!
と思ったときはもう遅かった。
何だ寿一もいたのか。
下手糞な自転車乗りが追い風に頼るのは話にならんぞ。
すまんね新開君。
こんな屑につきあっとると、きみまで下手糞な乗り手になっちまうよなあ。
言いたいだけ言って、オヤジさんと徳一さんは登り坂を上がって行ってしまった。
もうすぐ風が変わるのに。
その以前に寿一はちゃんとこの坂を、向かい風で下り、向かい風で登ってきてるのに!
あの!
オヤジさんに言おうとする俺を、寿一はかすかに首を横に振って止めた。
箱学で、正式にインハイにでも出ない限り、あの人は俺を認めないだろうな。
なら。
思わず俺は言葉を継いだ。
出ろよインハイ!
エースになれよ!
俺、応援するからさ!
バキュンのポーズをおまけする。
寿一の目が、丸くなった。
応援してくれるのか?
俺を。
当たり前だろ!?
思わず声が大きくなる。
だって俺は思ってる。
自信さえもてば、寿一は絶対開花する。
そしたらきっとオヤジさんだって、おめさんをちゃんと見直すさ。
絶対だ。
このときまだ、俺は知らなかったのだ。
エースとしてインハイ初出場したあの年、総北もまた金城真護が初エースとして参加、寿一と先頭を争うことを。
そして俺自身もまたその辺りの時期に、このサーヴェロで小さな命を奪ってしまい、走りに専念できなくなることもまた、全く予期していなかったのだった。
このときはそう、誰も、誰もまだ何も、
全く知らなかったのだ・・・
それでも地球は回っている