現場に馴れてゆく

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訓練だといわれて行ったら、そこは本物の戦場だった。
月給は五万円。
先輩の兵卒には下働き扱いされ、訓練は苛烈きわまりない。
ああ、訓練じゃない。
軍用トラックからおろされた知らない町で、俺たちは住民をネオナチから救うのだといわれた。
発砲者を撃って住民物陰に誘導しようとしたら、かみつかれた。

助けにきたんだよ、怖くないよ

って言ってるのに、

助けてえ!

って逃げられた。
何でだ。

         2

別の町でも市民防衛。
ネオナチから命がけで守ってるのに鬼だ悪魔だと言われ、こどもらには石投げられた。
片目に当たったミハイルが、反射的に銃乱射してしまい、こどもらがバタバタっと倒れた。

こど・・・

いいかけたけど、ミハイルは、あれはインティファーダだと言い切った。
目の上を切ってしまって血をダラダラ流してる彼をとがめる言葉なんか、とてもじゃないが出せる雰囲気じゃなかった。
結局その傷がもとで、ミハイルは片目、失明した。

         3

誰も感謝してくれない。
誘導弾から守っても。
がれきの下から救い出しても。
フョードルが壊れた家からパソコンと携帯を持ってきた。
ミーシャとワーニャは大型冷蔵庫を。
ワシーリーが見あたらないと思ったら、ズボンを引き上げながら戻ってきた。
機銃を取り上げたかとおもうと、きた方向に八秒連射した。
人がいたとしても十中八九死んだはずだ。

いいな冷蔵庫

ワシーリーがいう。

だろ、俺んだ

そう答えたミーシャだったが、あとで歩兵長に取られたそうだ。
そうなるともつゆ知らず、このときのミーシャはめちゃめちゃいい笑顔だった。


#はたらいて笑顔になれた瞬間

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