漫画の著作権を売買する。

ある日、突然メールで編プロさんからお仕事のご依頼が来ました。

当初、好意的で、丁寧でいらして、原稿料、スケジュールについてもお話しし、いざお仕事の内容になりました。ここまではよくある事です。すると突然、編プロさんは、漫画家の作品を「配信してくれる出版社さんに先生が描いた作品を買取りしてもらう」、というお話をしてきました。つまり、漫画作品の著作権を出版社に売る⇒譲渡するという事です。どんな大きな出版社でも、ちいさな出版社でも、編集さんはこういう提案はしませんでした。著作権につきましては、どの編集さんも作品は作家さんのもの、という意識を強く持っていらっしゃいました。私は漫画家になって初めてこうしたお話をされたので驚いて気が動転してしまい、この条件だけは何とかならないかお話ししたのですがその編プロさんは「漫画の著作権を出版社に譲渡するのは弊社の絶対条件なので、それで不安に思うなら先生は弊社とお仕事はしないほうがいい」と、仕事の声をかけてきたのはそっちなのに、既にお断りモード。

そんなに強固に自信をお持ちで、変更も聞き入れてくれない事案であれば、一番最初のメールで作家に伝えるべきだと感じました。現時点で漫画の著作権の売買でなにも困ったことはなく殆どの作家さんにもご理解いただいている、とのお話ですが、その編プロが電子書籍の世界で仕事を初めて20年にも満たないのに、よい結果も悪い結果も未だ出ていないと私は感じます。

悪意を持って著作権の買取を勧めているわけではない、販売強化に役立てたい等、むしろその反対と思うのですが20年、30年たった時、漫画家が作品を自分で配信、または出版しようとしても買い取られていては何もできなくなってしまう。その時にその編プロさんは作品を譲渡した責任を取ってくださるのか、そこが気になりました。

自分で描いた物なのに、他人の財産になってしまう。その怖さを人から聞いて知っているのでこれ以上の話はもうこの編プロさんとはしないと思うのですが、漫画は自分の子供だと私は思っているので、色々な作家さんにそれぞれ事情はあれど私には自分の漫画の著作権を売ることはどうしてもできません。

編プロさんにも出版社に作品を買わせることで何らかのうまみもあるし、出版社も著作権を買い取っておけば良い事もあるだろうと思っているのはわかります。そして、出版社も編プロも組織ですが、漫画家はただの個人にすぎません。

そして最近は、電子書籍で漫画が手軽なものになった為か、それを取り巻く感覚まで手軽になりつつあるのが私は怖いのです。

こうした仕事に関する確認事は最初からできるだけつぶさにするべきですし、契約書についても契約書を用意した当人に反古にされた事があるので法律に詳しい人に読んでもらったりしたほうが良いと思います

電子配信で、通常の出版社とは違う感覚で漫画ビジネスに身を置いている人も多くなりましたが、出版社と編集がいても、漫画家がいないと漫画は出来ないという事実、そして漫画は少なからず芸術の分野である事、わかってほしいものです。

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