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<スピッツ140字の物語>毎週新作公開中!!

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twitterで話題の「#140字の物語」を、バンド・スピッツ(spitz)限定バージョンで書きました。2024年1月20日より毎週(土)更新、同年4月第二週のNo.17より毎週… もっと読む
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記事一覧

20.小さな生き物[2024.5.3.金]

20.小さな生き物[2024.5.3.金]

「僕は負けないよ」

決して消えることのない苦しい記憶を深い穴の底に埋めて、現実から目を逸らして、他人に臆病になっていた自分にも、苦手な雨は容赦なく降り注いだ。
それでも与えられたぬくもりを分かち合い、裸の言葉を晒して、立ち止まりつつも、前へと逃げていく。
後ろにさえ、逃げなければいい。

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19.春の歌[2024.4.26.金]

19.春の歌[2024.4.26.金]

春の歌が聴こえてきた。
棘のある泥濘みの藪の中を通って、その歌は聴こえてきた。〝大丈夫〟と無理矢理微笑んで、叫び声を懸命に押し込んで、愛と希望と自分の聲を忘れかけていた私に、その歌は真っ直ぐに聴こえてきた。
重い足を地面に沈めながらどこまでも歩いて行こう。
さあ、春の歌が聴こえてくる。

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18.美しい鰭②[2024.4.19.金]

18.美しい鰭②[2024.4.19.金]

心が抑圧され擦り減りすべてが壊れてしまって思わず泣いてしまった夜、その人にその不恰好な姿を見られてしまった。ただ無言で泣きじゃくる私に、〝助けを求めていいんだよ〟心の内どこかで、その人の囁く聲がした。
〝大丈夫だよ〟
その人の大きな温かい手が、私の背中をポンポンと優しく叩いてくれた。

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17.エトランゼ[2024.4.12.金]

17.エトランゼ[2024.4.12.金]

目を閉じても目を開いても海の中を泳いでいた。冷たくも温かくもない、荒れていても凪いでもいない、痛いわけでも緩いわけでもない、されどどこか合わない、海。味も匂いもしない同じ液体を纏い、泳ぐ。深海でも浅瀬でもない白い闇を、たよりもなく、泳ぐ。内臓に刺さる刃物の感触だけは、残っている。

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<📣お知らせ【更新日の変更について】>

2024年1月20日より毎週(土)に新作を公開していますが、4月第二週のNo.17より、毎週(金)更新に新作公開日を移動します。

【スケジュール🗓️】
○No.16『幻のドラゴン』:
4/6(土)公開(済)
○No.17*作品未定:
❌4/13(土)公開⇨⭕️4/12(金)公開(予定)
◎No.17以降、毎週(金)に新作公開

【変更点】
毎週(土)に新作公開⇨毎週(金)に新作公開
#140

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16.幻のドラゴン[2024.4.6.土]

16.幻のドラゴン[2024.4.6.土]

どう受け取られるかなどは考えず、見てほしい自分を、見せたい自分を見せるために、いつもがむしゃらに坂道を突き進んでいた。
あまりにも細い糸で岸と岸を繋いで少し危ない賭けに出たりもするなど、いつも強気に小型飛行機を漕いでいた。
ゆらゆらな自分が雲隠れしてしまうほどに、私は君に夢中だった。

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15.大好物[2024.3.30.土]

15.大好物[2024.3.30.土]

少しの揺れで崩れてしまっていた臆病なぎりぎりの自分の心を、青に混じった可愛らしい光の粒がくすぐってくれたのは、冬の終わりのことだった。
君がくれた魔法が私に幸せの音色を取り戻させ、スミからキへと生活を彩り変えていく。
昨日大好きだったものが、今日も、そして明日も、大好きなものになる。

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14.紫の夜を越えて[2024.3.23.土]

14.紫の夜を越えて[2024.3.23.土]

美しい惑星は、見えなかった。
それなのに、あの人はいつも立派な青色を持っていた。
ある時、その青に可愛らしい光の粒が混ざった。
その粒に、少しの揺れで崩れてしまっていた臆病なぎりぎりの自分の心が、可愛く笑った。
捨てた方が良いと言われた傷を飲み込んで、私は再び目を開き、美しい惑星を見る。

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13.歌ウサギ[2024.3.16.土]

13.歌ウサギ[2024.3.16.土]

いつも、よく分からない気持ちを抱えたまんま、妙にぴょんぴょんと生きていた。
変わらないつまらない毎日に、寝る前にまとめて泣いて、精一杯浅く息を吸い込んで、生きる意味とか世の中への抵抗とかを少しだけ吐き出して、
今日も、よく分からない気持ちを抱えたまんま、妙にぴょんぴょんと生きていく。

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12.ガーベラ[2024.3.9.土]

12.ガーベラ[2024.3.9.土]

朽ち果てた時空の隙間で、息をする為に清純な雫を流していた。
劈開した世界に微音が反響し、耳を過敏に通る。

己の意思を見失い、

他人の顔色を伺い、

虚構の仮面を貼り付けた、

素の自分を受け入れてくれる唯一の在り処であるその場所で、

勇気を持ち、

手を白い闇に伸ばして、

〝ハロー〟とまた声を出して。

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11.コメット[2024.3.2.土]

11.コメット[2024.3.2.土]

いつの日か息の仕方を忘れ「ありがとう」も「さよなら」も言えなくなり、彷徨い疲れ千切れた心体の果てで、君に出会った。
誰も信じることが出来なくなった自分を毛布に包んで自分からも見えなくし、つくばいのような優しさから離されまいと、たとえば生きる為の滴とするように、必死に手を振り続けた。

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10.遥か[2024.2.17.土]

10.遥か[2024.2.17.土]

遠い近道をすり抜けることに、憧れていた。
人住まずの洋館の門扉をくぐり抜け、茨の絡みついた螺旋階段を上って、いつまでも続くような細道を走った。
その道の果てに、林檎の木があった。
振り返ると、来たはずの道は消えていた。
もう一度振り返ると、目の前に林檎が落ちていて、細道がまた続いていた。

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9.冷たい頬[2024.2.10.土]

9.冷たい頬[2024.2.10.土]

「私のこと、本当に愛してる?」
彼女によくそう聞かれた。
彼女のことは好きだった。
猫のようにじゃれ合って、男友達のようにふざけ合って、それらが全て許されていると勘違いしていた。
僕は彼女の全てを知りながら、彼女のことを何にも知らなかった。
僕はただ、逆さまの世界にクローバーを映していた。

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8.空も飛べるはず[2024.2.3.土]

8.空も飛べるはず[2024.2.3.土]

若草色の表紙を捲る。
あの日から書き連ねて来た言の葉をなぞる。
大きな青い空の下、木の匂いが髪をくすぐる校舎の一つの教室の中、隣り同士の席で、互いに夢を語り合った日を思い返す。
詩人を夢見ていた彼と、小説家を夢見ていた私。
十数年が経ったいま、彼は同じ空に羽ばたくことが出来たのだろうか。

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