黄色いスクーターを乗り回す女



縁とは不思議なものである。

我が家に度々来訪する方の中に、義母の高校時代からの友人のAさんという女性がいる。

最初は義母を通して出会い、挨拶する中だったのが、近くを通りかかったので、と安くで仕入れた野菜、手作りのじゃこ山椒のふりかけ、ふきの炊いたやつ、昆布の佃煮(いずれも美味である)・・などを度々届けてくださるようになった。うちが不在の時は、玄関先に野菜やお菓子が入ったビニール袋が置かれており、「12時50分、A訪問」とメモ書きが貼られてあったりする。

Aさんの髪は全体的に気持ちがいいほど刈り上げられており、それが会う度に短くなっていく。バリカン3ミリのレベルをゆうに超えている。そして「もうおっさんだかおばはんだかわからんやろっ?!」とこちらが返答に困るようなことを笑いながら言うのが常である。

Aさんの愛車は遠くからでもはっきりとわかるほどの、ど派手な黄色のスクーターだ。このスクーターで京都市内を西から東へ大横断し、そしてAさんは携帯電話を所持していない。

このスマホ全盛のご時世、「待ち合わせする時とか、大変じゃないですか?」と聞くと、

決まってAさんは「わたし、友達いーひんもん!」と、かっかっかっと豪快に笑い飛ばし、「待ち合わせてランチするとか、そんなん嫌いやねん。行きたい時に一人でさらっと入るのが好きやねん」と、一言。

友達がいないと言いつつ、Aさんはあの黄色のスクーターで、西へ東へ北へ南へ知り合いの家を訪ねていく。大量の野菜やお惣菜、お菓子を乗せて。たまに街中で黄色いスクーターを見かけると、もしやAさんでは?と顔を確認してしまうほどだ。

先日義父の命日に、Aさんはいつものスタイルで登場した。

義父とは若い頃から家族ぐるみでの付き合いで、たまたま今日が命日であると気づき、家へ寄ってくれたのだ。「好きかどうかわからへんけども」と王将の餃子を持参して。

「どうぞどうぞ」と中に入ってもらい、お仏壇の前で義父にまつわる思い出話をAさんの芸人なみの爆笑トークで繰り広げられる。仏壇の前でこんなに笑っていいものだろうかと思いながら、義父の遺影をちらっと見ると、苦笑いともとれる微笑みを浮かべていた。

学校から息子が帰ってくると、Aさんと息子の掛け合いが始まる。血のつながりも何もない二人だが、親戚のおばちゃんと子供のように、また昔からそうであったように、自然と二人は場に馴染むのだった。

帰りに外まで見送ると、Aさんのスクーターはグレーに変わっていた。あのトレードマークの黄色いスクーターはとうとう潰れたのだそうだ。これではもう街中でAさんを探すことはないだろうなと、少し寂しくなる。

我が家に明るいAさんの余韻が残りつつ、いただいた自家製ちりめん山椒をあつあつのごはんにのっけて食べた。

いつでもAさんの作ったお惣菜は、母の作る味に似ている。





記事を気に入っていただけたらサポートお願いします。それを元手に町に繰り出し、ネタを血眼で探し、面白い記事に全力投球する所存です。