変なおっさん


どこの町にも日中ふらふらと放浪して「あの人一体何してるんだろう?」という風貌のおっさんがいるものだ。

我が故郷にも一人いた。

夏目漱石に極似で、いつもぼーっと佇み、どこか遠くを見つめている。小学生の間で「あのおっさんに近づくと、わーっと叫びながら追いかけてくるらしい」と言ううわさが広まっているほどだった。

大人の間のうわさでは「あの人は高学歴で、大変頭が良い人だったが、人生のどこかで狂ってしまったらしい」というものだった。

どちらにせよ、うわさなので誰も真実は知らない。子供ながらに「うわさって不思議だ。本当は違うかもしれない人物像を、勝手に周りが作り出している。なんか恐ろしい」と思っていた。だから、うわさというものは当てにならないと察知した。

たまにおっさんに遭遇すると、遠くからこちらを見ているのがわかった。おっさんの目は人生を生きてる目がしなかった。虚ろで哀しげだった。おっさんは一度もわーっと叫んで追いかけてくることもなかったし、誰かに危害を加えるようなこともなかった。

ただ世捨て人のような目で、いつも佇んでいるだけだった。でも何か言いたげな表情をしていた。


月日は流れ、まだ小さかった息子と散歩してる道中、ふらふらとあるおっさんが近寄ってきた。見た感じは気のいいおっさんという風貌だが、目がどこかあの夏目漱石似のおっさんを思い出させた。

「ぼく、ぼく、おりこうやなあ。でもな、こんなへんなおっさんについていったらあかんのやでえ」と息子に話しかけている。

人見知りしせず、どんな人にもニコニコと近寄っていく息子だったが、明らかに表情が固まっていた。何かおっさんから放たれるバイブスを察知したのだろう。

「じゃ」と立ち去っていくおっさんの後ろ姿を見届けた。やはり夏目漱石を思い出した。おっさんは町にすうっと馴染み、溶け込んで消えていった。

変なおっさんは、町の中の一部だ。







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