自然派志向ではないですが。


去年仕込んだ味噌が出来上がった。

これで完成したのか正直よくわからないが、今晩の豚汁で成果がわかるだろう。


二年前から、梅酒、梅シロップ、梅干し作りなど、梅仕事をやり始め、とうとう重い腰をあげて味噌つくりに去年挑戦した。

もともと、梅仕事も味噌つくりも、自然派志向だからやりだしたわけではない。


昔の人が当たり前にしていた、手間暇かけて一年熟成させて作るという工程を、一度体験したかったからだ。
発見や驚き、楽しさもあって、やってよかったと思えた。

しかし、自分という人間が、まさか梅干しや味噌を仕込みだすとは、人生どう転ぶのかわからないものだ。


うちの母親は今思うと、自然派志向の人だった。
どくだみ茶を飲まされたり、お腹の調子が悪い時は梅肉エキスをなめさせられたり、草餅をつくるから土手でよもぎを摘んできてと言われ、よく兄とよもぎ摘みに行かされた。
おやつも果物や手作りの’芋ようかん’や手作りドーナツ、きなこをご飯にかけた’きなこご飯’などだった。

市販のお菓子をほとんど食べさせてもらえなかったので、友達の家に呼ばれて、キンキンに冷えたお茶の中にポッキーが10本くらい入ってるグラスを出された時は、天と地がひっくり返るほどの衝撃でのけ反ってしまったことを覚えている。

こんな斬新な食べ方があるなんて!
ポッキーってなんておいしい食べ物なんだ!

人間は極端に何かをだめと言われたりすればするほど、その反動でだめなものを求めるのだと思う。
思春期になったわたしは、ありったけの小銭を握りしめて、ポテトチップBIGやらピザポテトなどのスナック菓子を買い求め、むさぼりつくように食べるようになった。


高校の茶道の研修で行かされた精進料理も、蕎麦以外まったく食べられなかった。
おいしい、おいしいと言って食べてる同級生を内心白い目で見ていた。

「食べるもの、ないやん。刺身ってこれ、こんにゃくやん!騙されてるやん!動物性のものを摂れないからって、誤魔化して食べてるだけやん!これは不健康な食べ方や!」と、腹のワタが煮えくり返るくらいの怒りを精進料理に対してぶつけていた。


そんな思春期を過ごしていたので、料理もまったく作れない。
作れるといえば、牛乳に混ぜるだけのフルーチェくらいのものだった。

そんなわたしが中学の卒業文集で書いた将来の夢が、「ふつうのお嫁さん」だったような気がする。

料理もなんにも出来ないような女が、どの面下げて、そんな夢を抱くのだ!と、今思えば説教ものだが、現在結婚して子供もいて、ほどほどに料理もするようになって、味噌を仕込むほどまでになったのだから、人生の帳尻合わせが絶妙というしかない。

先日4歳の息子と河原に行ったとき、息子が「おかあさん、これよもぎや!これでなにか作ろう」と言い出し、一心不乱によもぎ摘みを始めた。

息子にわたしの母の遺伝子がしっかり組み込まれてることを確信した瞬間である。

摘んできたよもぎは、天日干しして、よもぎ茶にするつもりだ。



2017.2.27『もそっと笑う女』より


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