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酷暑と雨の夏。そんなときに読んでほしい。

8月の私の決まり事。
原民喜の『鎮魂歌』を読む。そして思い出す、123便。

昨日まで、直前まで会っていた人が急に二度と会えない存在になる。
スキップ可能ゾーン⇒(だから当たり前にまた次も会えると(ふつうに)ざっぱにに対応している人を見ると大事にしてあげてな、言葉で伝えておくんだよ。後で後悔するのは自分だよと思ってしまいます)
それを何度も経験したので誰かと「またね」という時は
二度と会えない可能性だってあるのだから常に感謝は伝えていよう。
ありがとうは惜しみなく言おう。それを肝に銘じています。
123便は強く心に刻まれてる記憶。
大人になってからの経験よりも余計に強く残るのかもしれません。

何年も何年も詩にできなくてやっと書けた作品が「億劫」です。
原民喜の『鎮魂歌』も言葉が出ないほど素晴らしいです。死を隣に感じながらも民喜は未来に生きる人々のことを憂い何かを遺せたらとこの作品を書きました。広島で被爆した彼は後に鉄道自殺を遂げてしまいますが詩人である彼の文章はなにを書いても詩のようで、読む度に頭の中で音楽が響きます。わたししか聞けないオーケストラで。
8月酷暑のお家ごもりのお供にぜひ手にしてほしい一冊です。

億劫(おっこう)                 網野杏子

方位磁石の震える針
空中ブランコの曲芸
腰より低い位置で
細い布に委ねられる私の命

have a break have a nice flight!
耳鳴りに慣れる頃
ネスカフェのホットコーヒー
チョコレートと配られるから
安い豆の味も紛れて
空の上でとまって見えるのは
速すぎるから見えないだけで
シャープペンシルの先が常に尖っているから
選んでよかったとほくそ笑んでいる
愚鈍。
―朝には紅顔ありて
   夕には白骨となれる身なりー※

50B のシート
二十歳(はたち)だったジュンコさんの体が張り付いている
私は目を逸らす
親しかった人は何も言わなかったこと
朝まで流れ続けた黒画面のテロップ
きれいなひとから
どんどん先に吸い込まれていく

ダッチロールのない快適な1時間50分
牡蠣の殻にへばりついたようなマンションやビルの群れ
あそこにはほんの少し前まで
腕が触れる位置で笑っていた人がいた
たしかに

タブレットで時間をつぶす
Twitterでは
素手でガラスの破片を投げつけてきた人が
他の誰かにぶつけていた
被害者であり続ける生が散らばって割れている
数年後もきっと
彼女はここで嘆いているだろう
吸い込まれない私と

集荷される速度でタラップに追われる
銀色の小さな円柱がつま先に当たる
ジュンコサンの視線を強く感じながら
誰のものともわからぬ口紅も
一緒に 連れて帰る

また
セミが死期を察して鳴いている
携帯・タブレット・PC
フランキンセンスを数滴落とした浴槽に
順に埋葬していく
もう誰も私に話しかけてこない
握りしめた銀色
唇に這わせる 真紅の
果てない八月

               同人誌『詩杜』Vol.3掲載作品一部修正版

億劫  仏教用語。気の遠くなるほどの年月
※       蓮如『白骨章』より引用。

基本疑り深いので(ゆがんだ性格カミングアウトタイム)ハートを付けてくださった全員の方がここまでたどり着いているとは思っていません。
そんな場所でもうひとつのおススメの詩を。
和合亮一さんがこっそり6月に、もうひとつアカウントを作って詩を置いていきました
「犬を探して下さい、探して下さいよ。」
暑いこの時期に特に大雨の日に読んで欲しい作品です。
noteで詩を読む機会が増えましたが正直
ちゃんと「詩人」が書いた詩だ。と感じました。
結構みなさんたどり着けてないようでもったいないと思ったのでおススメさせて下さい。詩を置かれる前に偽アカウントかと心配して本人に確認したので間違いなく本人作品です。

詩書きや詩人さんはパッケージに弱い人が多いです。
(わたしの知っている限り)
脚光を浴びた途端その人への反応が手のひら返しになる人たちを見て
「底が知れるな」と思ったことも何度もあります。
和合さんは関わってもメリットがひとつもないだろうわたしに対して
数回しかお会いしたことがないのに昔から全く対応が変わらない稀少な人です。詩もあの震災があったからこそあんなにわかりやすい詩を書くようになってそれまでは作風が違ってました。
たまに礫だけの和合と思うなよ!的なw8月生まれの和合さんが顔を出してそんなときに出す詩がわたしは好きなのですがこの作品もそちら系だと思っています。

noteでは総スカンだろうことを書くと
自分の詩集の第一作、第一連目に

 私は、こぉーんなにも傷ついているの わかって
 私は、こぉーんなにもレトリックを知っております フフ
 そんな詩には、もう飽きました
 たくさん本を読む
 詩人に対して論じる 
 その前に
 やることあるだろ

と書いた人間です。
もちろんこれからも不出来な自作に向き合って
詩を学びますし詩人を学びますし文法も
学んでいこうと前向きですが
ベース思想にはこの第一連があります。

いくつになってもこの面倒くさい熱さで
この夏くらい暑苦しく生き抜いてやろうと思っています
(※注意!いまのところ!苦笑。)

                        (了)

  
         


アンビリーバーボーな薄給で働いているのでw他県の詩の勉強会に行く旅費の積立にさせていただきます。