彼女はいつもオーロラを纏って歩いている。
幸せな詩人に会いたかったんだ。話しを聴きたかった。フリしたり、誤魔化してる人はいくらもいたけど周りに1人もいなかったから僕はトリニダード・トバゴに旅に出た。
朝一番の飛行機で。
カーニバルの帽子 魔女の媚薬 妖精のためにとっておくひとくちのレモンパイ
左のほっぺにうさぎを描いている女の子がのどを鳴らしてねだってくる。
「オーロラが見たいの。今、すぐによ」
わけないよと言う顔で僕は彼女のミニスカートに頭を入れる。ゆれる女の子。ドレープが一緒に揺れる。ミントグリーン、チェリーブロッサム。
「オーロラを纏って歩いているのにずっと人にねだってたの?大層なお馬鹿さんだね」
「このオーロラは嫌い」
「じゃあなんでスカートを穿いてるの?」
「男の子が優しくしてくれるから」
「君じゃなくて、スカートに優しくしてるのに」
「それでも構わない。優しくされたら嬉しいもの」
「哀しいね」
「バルでテキーラを飲み比べしてたんだ。酔っぱらってレディースルームに入った。細い足首にアンクレットの後ろ姿に釘づけになってね」
「あなただって好きじゃない」
「聞いて。彼女は僕が視線を外せないのを感じてた。長い髪を何度もかきあげて豊満なヒップを突き出して。もちろん一秒だって鏡の自分から顔をそらさずにね。そしてあでやかに去った。放心した僕はそのあと何を見たと思う?」
「?」
「メドゥーサさ。洗面台でとぐろを巻いてた。あれはまさに蛇だったね。目を見てないのに石にされたよ」
ラウラの顔が初めてほころんだ。
もう詩人は探さないのと妻が言う。オーロラと詩は似たようなものだから。僕はわかったふりして嘘ぶく。
彼女はいつもオーロラを纏って歩いている。
ベルーガの精霊のダンス。発光。
もし急な嵐が来ても傘を左手に飛んでいくの。メアリ・ポピンズみたいに。
ハッピーエンドって信じる?僕は聞く。ラウラは微笑む。アルカイックスマイルで。妻は僕のペンの先で小さくなる。いつのまにかレモンパイはなくなってる。
子守唄をまた聞きたい?
アンビリーバーボーな薄給で働いているのでw他県の詩の勉強会に行く旅費の積立にさせていただきます。