見出し画像

【タイムスリップコップ】帰りたくなったよ

ワカコはいつものようにファミレスへ行く。
あの鬱々とした家にいたくないからだ

早速ドリンクバーを注文する。
店員の舌ったらずな接客をやり過ごしドリンクバーへ。

ふと立ち止まってしまった。
いつもと違うような気がする・・・。

まぁいいかと考え、ワカコは近くにあったプラスチックコップを取った。
何にしようかなぁと機械の前で迷っていると、

「あなたがこの世で、一番好きな飲み物と想像するだけで嫌になる飲み物を混ぜてみてください。フシギなことが起こります」

と書いてあるカードが飾ってある。

はたと、考える。

好きな飲み物はあるけれど、好きで好きでたまらないほどではない。
というかこのフリードリンクの中にはない。
見るだけで嫌になる飲み物も、今のところ出会ったことはない。

好きな飲み物と嫌いというより苦手な飲み物を思い浮かべながら適当にコップを置きスイッチを押した。
まぁものは試し。やってみよう。
面白そうだし。暇だし。

なんとなく、子どもの頃に父親に騙されて飲んでしまったビールを思い出す。
今は美味しく感じるのに、あの頃は不味かったなぁ。
シュワシュワで苦い、コーラならいくらでも飲めたのに。

そう思いながらテキトーに選んだメロンクリームソーダがコップに入っていく様を眺めている。

あれ?
なんか違う。

色がメロンクリームソーダではない。

(おいおいどういうこった?)

ワカコは戸惑いながらもその色とは程遠いそれを一口、飲んでみる。

思ったほど不味くない。
と思った瞬間。

胸の中で懐かしい思いが広がっていく。
なんというのか、子どもの頃に帰りたい・・・みたいな。

それは子どもの頃に父親に騙されて飲んだ、ビールの苦々しさとも似ているような。

今ファミレスにいるはずなのに、なぜか実家に帰ってきているかのような思いにさせられるのだった。

強い風が吹いた。
そこは間違いなくファミレスのドリンクバーだった。
あのカードが落ちていた。
拾い上げようと右手を伸ばした時、続きに書かれていたある一文が目に飛び込んできた。

「あなたがこの世で、一番好きな飲み物と想像するだけで嫌になる飲み物を混ぜてみてください。フシギなことが起こります」
「もし思いつかなくとも、それを考えるもしくは思い出しながら飲み物を入れるだけでもフシギなことは起こるでしょう。そして

きっとあなたはコドモの頃に戻りたくなることでしょう」

#毎週ショートショートnote

よろしければサポートを頂けると幸いです。 頂いたサポートは、自分や家族が幸せになれることやものに使わせていただきます。