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【ことわざdeショートショート】アニの真似をしたいオトウト

#ショートショート
#短編
#鵜(う)の真似をする烏(からす)

「すごいだろぉ~。これなんか純金なんだぜ!」
「まぁ~、すごい♡」

成功者の代名詞といっても過言ではない「ヒルズ族」
今まで夢見ていた場所である。

「すごーい。パソコンもおっきい~」
「そりゃあそうだよ。IT会社なんだから、これぐらい良いのを揃えないと仕事にならないんだよ~」
俺は朝から丹念になでつけてきた髪を見せつけつつ、左手首を小刻みに震わせた。
手首から覗く金色に光り輝く高級時計。100万はくだらないだろう。
「まぁ、時計もステキ」
昼間の割に随分と露出的なファッションをしている女の顔も、完全にとろけている。
これで彼女もイチコロだ…。
この後の展開を想像しながらにんまりしていたところへ、俺の背後から物音がした。
「えっ?」
「…!?」
「おまえ…、何やってんだ?」
赤のヨレヨレパーカーに、ところどころ穴の開いてるジーンズという恰好の男が、両手に何か資材のようなものを抱えて立ち止まっている。
「えっ?なに?どういうこと?」
女が、男たちを交互に見ながら、今にも倒れそうな勢いで驚愕している。
「おい!オトウト。何してるんだ?」
「こ、これにはワケがあって…」
さっきまでの威勢の良い様相はどこへやら。
オトウト呼ばわりした男がつかつかと近づいてくる。
「しかもお前、また俺の時計無断で持ち出しやがって」
男の顔は怒りと呆れで溢れている。
「その、これはあの…」
すると女が奇声のようなものを発しながら、一目散にその場を走り去ってしまった。
だだっ広い部屋の中、顔も造作もそっくりな二人の男の間に気まずい空気が流れる。

「ゴメン…。ただアニの真似をしたくて、こんなことを」
するとアニがオトウトの肩をポンと叩き、
「ドンマイ」
と呟いた。

双子というのは時に残酷なものだ。

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