【ことわざdeショートショート】彼女にはその価値など分かるまい
#ショートショート
#短編
#猫に小判
「あれ?無い…」
出勤前、何となく気になってリュックをひっくり返した。
財布に定期入れ、ポーチにタオルに折り畳み傘、隙間時間に読む文庫本…、
だが、肝心なアレが見当たらない。
財布の中や定期入れなどを丹念に見てみるも、全く見当たらない。
私の顔が真っ青になっていく。
「どうしたの?」
えみなが、ヘッドフォンをしながらのんびりと入ってきた。
一か月前、家賃が払えないと泣きながら転がり込んできた友人だ。
慌てふためく横で、彼女はいつもようにメイクを始めた。
「いつも入れているアレがないの…」
「もしかして、あの白っぽい石みたいなやつ?」
「そう、それ!えみな、どこかで見た?」
「うん。ベッドの隅に落ちてたよ」
「それ、どこに置いた?」
するとえみなは、アイライナーを手に取りながら答えた。
「あー、メル〇リで売ったけど」
「えっ…」
私は頭が真っ白になった。
「だってさ、アンタのリュックの中、いっつも汚いじゃん。なんかの切れ端とかぁ、賞味期限きれてる飴とかぁ、そういうのを捨ててあげたら、いっつも助かる~とか言ってたし~。だから、それもてっきりいらないもんだと思って、メル〇リ出しちゃった。即売れだったよ~」
いやぁーいい小遣い稼ぎになったわ~と、無邪気に笑って話しているえみなだったけど、私の心は大嵐だった。
石は石でも、ただの石じゃない。
それは私が誰よりも推してる、セブンシスターズ・カリンちゃんがくれた大切なものなんだから。
私は、まるで体の一部が引きちぎられたようでしばらくその場から動けなかった…。
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