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2-7 有害人間シュサイダー誕生!!2

 紆余曲折を得て、エホバの証人だから、という理由だけでよい人、尊敬すべき人などという考えをすることがなくなった私は、今度来る巡回監督がとんでもないやつでないことを祈っていた。

 少なくとも、前回の巡回監督ほどでなくとも、普通の人であることを願っていた。

 そして、荷物搬入とお出迎え当日。

 長老たちと召集された若者たちは緊張した面持ちで巡回監督の到着を待っていた。

「いらっしゃいましたー」

 シンイチが道路わきで見張り番をかって出たのか、奴が皆に合図をした。

 
 一気に皆の緊張が伝わってきて、笑いをこらえるのに少し苦労した。


 巡回監督が到着後、皆は監督に小走りで近寄り、彼が車から降りてくると、列をなして笑顔で挨拶をした。そして握手を求めていた。

 私も必要な挨拶を終えると荷物の運び出しの手伝いへとトランクへ向かう。

 少しぐらい愛想があってもよさそうだが、能面のような表情で、感謝の言葉が監督から出てくることはなかった。皆集まるのだから、「親切に感謝します」くらいの言葉はあってもいいだろうに。

 そんなことを考えながら、巡回監督の奥さんにどれから運び出したらいいかリクエストをうけたまわる。


 指示通りに積み下ろしを行い、首尾よくすべてを終えた。

 長老たちは巡回監督と何か話していたが、最後まで感謝の言葉はなかった。私は何となく嫌な予感がした。


 帰り際、長老たちを見ると、新米長老の細畑が汗を流しながら顔を真っ赤にして何か話していた。

 いつもの彼の様子と言えばそれまでだが、巡回監督から何か言われているのかもしれない。

 いずれにしても私に関係のないことだった。


 私は皆に挨拶し、そのまま帰宅した。


 後から聞いた話だが、細畑は何かやらかしていたらしく、それを巡回監督に詰められていたということだった。

 ちなみに、彼が顔を真っ赤にして汗だらだら流すこの一連の動作は皆がよく知るいつもの細畑のしぐさの一つであった。

 彼はすぐに何かに過剰反応して怒鳴ったりあせったりする。同時にそれは顔にも表れる。小太りな体型と相まって、暑苦しさが倍増する。

 クリスチャン会衆だろうと一般社会だろうと、監督する立場に就けるほどの器を持ち合わされているとは思えないが、これも連中が言う「神からの任命」なのだろう。

 細畑は誰かれ構わず助言をしてまわるというのが大好きな人間でもあった。

 有名な逸話がいくつもあるが、まだ彼が二十代半ばのころの話だ。育児に忙しくしている主婦の信者たちに向かってこう言い放ったという。

 「姉妹たちは(女性の仲間のクリスチャンのことをエホバの証人はこう呼ぶ)きちんと子育てなんかできませんよ。聖書もきちんと理解できていないんですからね。」

 子育ての経験がないやつが、こういうことを言い放つその無神経さと意味不明っぷりにその場にいた主婦のクリスチャンは唖然としたという。

 方々で勘違い発言や舌禍を繰り返していたので、誰もこいつが長老になれるとは思っていなかった。むしろ、彼と関わりたくないと思う人間が多くいた。

 しかし、「神の任命により」彼は悲願の長老になれたのだった。

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