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ギャンの盾は誘爆しない

ギャン盾問題は 周期的に盛り上がる。ご存じの通りギャンはシールド周辺の赤い部分から「針ミサイル」を,中央の黄色い部分から「ハイドボンブ」という機雷を発射する設定になっている。ここから「シールドに爆装して大丈夫なのか? 防御のときに誘爆してかえってダメージを受けないか? それで防御になるのか?」という疑問が発生する。僕らの大好きなギャンが「バカスwwwwwシールドに火薬とかwwwwワロスwwwまじクソスwwwww」などと言われないためにも,なんとか理屈をつけてあげなければならない。これがギャン盾問題である。

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よくある見解①「爆薬は燃えにくい」説

一理ある。宇宙世紀のミサイルがどうなっているかは不明だが,現代のミサイルなどは引火しにくい爆薬が使われており,仮に引火しても重油のようにジワジワ燃えるものらしい。映画のガソリン爆発みたいにボワッとは燃えないのだ。後述する②とも相関するが,例え被弾してシールドと左腕を失ったとしても,そのことで本体が守られるのであれば,じゅうぶん防御になっているではないか。そうではないか。大丈夫マイフレンド。

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よくある見解②「爆発反応装甲」説

一理ある。宇宙世紀のミサイルがどうなっているかは不明だが,現代の戦車には爆発反応装甲というのがあって,要するに戦車の表面にびっしり爆薬を貼り付けるのである。装甲が爆発することで,対戦車ミサイルの軌道を逸らしたり,爆発力を弱めたりすることが出来るという。現実にもあるんだから宇宙世紀にだってあり得る。リアリティ~。

ただちょっと待って欲しいのは,それはあくまで副次的な産物だということだ。ギャン盾の爆薬は,あくまでも攻撃のためにあるのもで,爆発反応の効果を期待したものではない。もしかしたらそういう部分も期待していたのかも知れないが,そのために,ではないことは覚えておきたい。

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よくある見解③「めっちゃ頑丈」説

一理ある。宇宙世紀のミサイルがどうなっているかは不明だが,そもそも自分の爆薬でダメージ食らうくらいならシールドとして役に立たないだろ,と。ですよねー。

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20年前のamigo仮説「そもそも盾ではない」説

2000年夏のコミケで同人誌に書いたことを繰り返すだけなんだけど,「そもそもあれは盾ではない」という考えである。「シールド」という名称の銃,火器,射撃兵器なのだ。

そもそもギャンとは何か。そしてゲルググとは何か。高名なゲルギャンコンペは,ホワイトベース隊の戦果に衝撃をうけたジオンが,RX-78に対抗できるMSの開発を目指したものである。しかしRX-78について,ジオニックとツィマッドは異なる解釈をおこなった。ジオニックはRX-78を格闘も射撃もできる万能MSと捉え,ゲルググを開発した。一方ツィマッドはガンタンクやガンキャノンの火力支援を受けつつ白兵戦を行う格闘MSこそRX-78であるとし,ドム/リックドムに火力支援される白兵戦用MSとしてギャンを開発した。

もともとジオニックはザクのような「万能MS」を主力商品としてきた以上,RX-78をスーパー万能MSと捉えたのは自然なことである。またゴッグ,ドムなど局地専用MSを開発してきたツィマッドが,役割を分担するRXモビルスーツ群全体を「システム」として捉えたのも,また自然なことであろう。ギャンはしばしば「ジオンのガンダム」などと呼ばれることがあるが,その文脈には注意が必要である。ゲルググは「ジオンのRX-78-2」であり,ギャンは「ジオンのRX計画」であったのだ。

まして当時,自社のドム/リックドムが一時しのぎとはいえ主力機として採用されていたツィマッドにとって,すでに大量配備されているドム系を有効に活かしつつ,さらなるシェア拡大を図ることができるこの路線は,さぞかし魅力的なものであったに違いない。一年戦争初期にも,旧式化しつつあったMS-05に火力支援させ,新鋭のMS-06が前衛を務めるといった運用は見られることも申し添えておきたい。

この「ドム系に火力支援されて白兵戦をおこなうギャン」というイメージは,決して俺説ではない。『MSV モビルスーツバリエーション2 ジオン軍MSMA編』(1984年,講談社。のち1999~2000年に『MSVコレクションファイル』として再録)にはじまる,由緒正しい設定なのである。

これはその後のほとんどのガンダム資料で軽視されているようだが,筆者はギャンを考察する上では絶対に欠かせない,重要なものだと考えている。後のゲームに登場したif世界のギャンキャノン,あれはifとはいえ上記のようなギャンの位置づけをまったく無視したものであったが,広く人口に膾炙してしまったため(ifなのに!),世間がギャンを「誤解」する大きな要因になったと思う。本来なら,ドムがギャンキャノン的な役割を担うはずだったのだ。

さて。以上を踏まえてのギャン盾。ギャンは単体で運用するものではなく,ドム系との連携を前提としている訳だから,長大な射撃兵器は不要である。必要なのは近接戦闘での火器,つまり取り回しがよく(前後長が短く),広範囲を一気に攻撃できるものが望ましい。ソードオフしたショットガンのような。こうした要求に応えた結果があの「シールド型ミサイルランチャー」なのではないだろうか。あの針型ミサイルは威力こそ小さいが,接近戦で広範囲かつ大量にバラ撒くことでMSの大きな弱点である関節部を破壊できる。また大型のシールドは相手の視界を遮ることもできるだろう。接近戦では合理的な火器である。

ギャン盾問題は,多くの論者があれを「防御用の装備」と思い込んでいるところから生まれている。防御用装備だとすれば,確かに爆装は危険だろう。しかしそもそもそれが誤りだったとしたら。あれが防御用ではなく,攻防兼用ですらなく,純粋に攻撃用の火器だったとしたら。ザクバズーカやハイパーバズーカに「爆装wwww誘爆したらどうすんのwwwwバロスwwww」とツッコむ人はいないだろう。あれは白兵戦に特化した(それは火力支援をドム系に任せているから)ギャンというMSの,接近戦用火器なのである。銃なのである。ミサイルランチャーなのである。ただ形状が銃っぽくないだけなのだ。だからif世界のギャンキャノンには,サーベルではなくシールドを持たせて欲しかった。持たせるべきであった。ヴァイエイトみたいな感じで。

だって設定には「盾」「シールド」って書いてあるじゃん,という指摘もあろう。そうあれは確かに「盾」「シールド」だ。しかしそれは一般名詞ではなく,固有名詞と考えてはどうか。あれはギャン専用のシールド型ミサイルランチャーで,それを「(ギャン)シールド」と呼称しているのである。劇中で「木馬」といえば,それは木製の馬のおもちゃではなく強襲揚陸艦を指す。「とんがり帽子」は帽子ではなくモビルアーマーである。同様に「シールド」と呼ばれる専用の接近戦用ミサイルランチャーがあってもおかしくないではないか。

繰り返すが,あれを防御装備と考えるからおかしなことになるのである。接近戦において取り回しがよく,広範囲を一度に攻撃できる合理的な射撃兵器として,あの火器が開発されたのである。ならば爆装していて何の不都合があろう。加えてギャンが,ドム系との連携を前提としたMSであったことも強調しておきたい。マ・クベも出撃時は4機のリックドムを随伴させている。彼の過ちは一騎打ちに走った点で,それは連邦でいえばガンタンクに格闘戦をやらせるくらいに運用が間違っていたのである。せめてシャアのビームライフルによる援護射撃があれば……まあどうせアムロさんがティロリーン発動させて終わりですね,はい。

……と,いうような内容を2000年夏のコミケで書いた。自分でも気に入っている仮説である。ウィキペディアでは,シールドではなくミサイルランチャーと捉える説の根拠として『別冊宝島 僕たちの好きなガンダム』(2002年,宝島社)をあげている。つまり俺の方が早い! 俺の勝ち! 俺スゴイ! とかいうつもりは勿論ないが,もしこれより古いものがあるなら,是非知りたいものである。

蛇足ながら,ゲルギャンコンペでギャンが敗れた要因も「ドム系との連携」が背景にあると思われる。すでに大量配備されているドム系を火力支援機として再利用するのは一見合理的だが,国力に乏しいジオン軍にとって,役割に特化したMSを複数種類生産するよりも,そこそこ何でもできる万能MSを1種生産する方がよいに決まっている。

そして 時は流れ,2019年2月。ネット上でn回目のギャン盾論争やってるのを見たら,なんか刺激を受けて,つらつら考えているうちに,新しい解釈を思いついてしまったのである。以下,最新版をどうぞ。

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2019年最新「液体炸薬で発射するから誘爆しない」説

ドム/リックドムの液体炸薬をご存じですか。ドム系の標準装備である360mmバズーカ,いわゆるジャイアントバズーカですね,あれはドムの掌から供給される液体炸薬によって発射されることになってるんです。これは『ガンダムセンチュリー』(1981年,みのり書房)にはじまる,由緒正しすぎて困っちゃうくらい古いものなのですが,その後のガンダム系史料ではほとんど触れられないままになっています。

ガンダム考察における『センチュリー』の位置づけは難しく,人によっては都合のいい記述だけ使って後は無視,みたいなこともあります。でもそういう取捨選択は,なるべくしたくない。ただそうなると,例えば有名なジョニーライデン専用R-2はジャイアントバズを使用しているけど,あの掌にも液体炸薬を供給する装置が備えられているのか。ジオニック社製なのに。ザクなのに。もしあるとしてそれは元からあったのか,それとも後で追加したものなのか。グフ飛行試験型もジャイアントバズ使ってるけど,アレはどうなのか。などなどの疑問が一気にわいてしまう訳です。

個人的には2通りの可能性があると思っています。①液体炸薬を使用しないタイプのジャイアントバズーカも作られている。②液体炸薬供給装置は簡単な改造で追加できる。したがってR-2や飛行試験グフがジャイアントバズ使っててもさほどの大問題ではないと思われるのですが,かといってそんなに面白い設定でもなく,話がふくらむ設定でもないので,センチュリー以外でこの点に言及しているガンダム本は少ないというか,もうほとんどないんじゃないかなという現状です。映像作品でもそのような描写はないのでは(あったら教えて下さい)。

さて上記を踏まえてのギャン盾(という名のミサイルランチャー)。ギャンもドムと同じツィマッド社製で,場合によっては(本来の運用ではないとはいえ)ジャイアントバズーカを使用できたであろうことは想像に難くないし,むしろそうしない方が不自然である。だってドムと一緒に運用する前提なんだからね。ということはギャンの腕部にも液体炸薬の供給装置が標準装備されていたはずで,だとすればギャン盾のミサイルを発射するのにも,その液体炸薬を使う方が自然ではないのか……? つまりシールド内には弾体と発射装置のみで,発射用の炸薬は腕部から供給されているとすれば……誘爆は……しない?? しないよね? 大丈夫だよね? つまり「攻撃用の火器で,かつ防御用の盾」ということになる訳だ。おお。おおお。おおおおおおお。

液体炸薬方式にはメリットがある。発射のための炸薬を装填する必要がなくなるので,装弾数を多くすることが可能になる。針ミサイルの装弾数は資料によって56~60発となっており,一部では「多すぎwwww」などと嘲笑されているが,液体炸薬で発射し,至近距離の数うちゃ当たるで関節部を狙う徹甲弾と考えれば,これくらいは必要な弾数だろう。

……ということで,TV版「機動戦士ガンダム」を確認してみた。シールドで射撃する場面は2つ。宇宙空間で赤い弾体を多数(ざっと数えたところ30~40発くらい?)を発射しているところ。もうひとつはテキサスコロニー内で,斬り合いをしながら数発発射しているところ。いずれも針ミサイルと思われ,後者は一瞬のことなのでうまく確認できないが,ほぼ間違いなかろう。

宇宙空間では数発がガンダムに命中し,シールドに損傷を与えているが,注目すべきは「爆発していない」点である。ホコリというか土煙っぽいものはあがっているが,明らかに爆発はしていない。針ミサイルはその性格上,徹甲弾のようなもので,炸裂弾ではないのだろう。つまり弾体自体は誘爆しない。そして発射用の炸薬は腕部から供給されるので,やっぱり誘爆しない。大丈夫。いける。

あとひとつ問題は,ハイドボンブである。中央部の黄色いところから発射される機雷。これも誘爆が心配されるが,そもそもこれは戦闘の初期に放出し,機先を制するようなものではあるまいか。古代ローマ軍のピルムみたいな。戦闘の中盤~終盤まで温存しておくものではないだろう。したがって接近戦で誘爆する心配はあまりないのではないか。そしておそらく,ハイドボンブの放出にも,前述の液体炸薬が使われているに違いない。

実際マ・クベもハイドボンブはまっさきに使っているし,中盤・終盤での使用は認められない。そして終盤,ガンダムのビームサーベル二刀流に切り刻まれてもしっかり耐えて本体を守り,もちろん誘爆などおきていない。そう,誘爆していないのである。この厳然たる事実をおろそかにしてはならない。本編で誘爆していないのに,みんな想像で勝手なことを言っているだけなのだ。それはまるで「ニュータイプなんかいる訳ない,そんな超能力はありえない」とか「ミノフスキー粒子なんてある訳ない,物理学的におかしい」と同じくらい,作品を無視した暴言なのである。

今回あらためて映像を確認して再認識したが,マ・クベは「盾として使っている」のだ。やっぱりアレは盾でもあるのだ。単なるミサイルランチャー「でも」ないのだ。盾だったのだ。一周まわった! 20年かけて一周まわって,やっぱり盾だった! そしてそれは誘爆の心配もなく,ちゃんと盾として使える盾なのだ。なぜならハイドボンブは戦闘の序盤ですべて放出しているし,針ミサイルは炸裂弾ではないし,発射は腕部から供給される液体炸薬をつかうから,誘爆の心配はないのだ。完璧だ! ギャンの神がいま俺に降りてきた! 見えた! わかった!

いや~映像大事。ちゃんと見てみること大事。資料よむだけじゃなくて,映像みて確かめるのも本当に大事だね。そっから色々見えてくることあるよ。一次資料だよ。あとこの説のいいところは,かの聖典『センチュリー』に記載されながらもその後ふくらまされることもなく,扱いづらく,長年放置されてきた「ジャイアントバズの液体炸薬」設定が,ちゃんと伏線として回収できるところにある。そこが自分では気に入っている点である。

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まとめ

○ギャンのアレは,攻撃用ミサイルランチャーと防御用シールドの両方を兼ねている

・接近戦の火器として大変有効。至近距離で広範囲を一斉に攻撃できる

・防御用の盾としても十分使用に耐えうるし,実際に耐えている

○誘爆はしない。なぜなら

・ハイドボンブは戦闘序盤ですべて放出するので,誘爆しない

・針ミサイルは徹甲弾であって炸裂弾ではないので,誘爆しない

・両者は腕部から供給される液体炸薬で発射されるため,誘爆しない

……ご意見・ご感想などあれば,↓までどうぞ。

https://twitter.com/amigo_umasui

(2019/02/08)

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