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代わりがいないということ

モデルは意外に体力勝負。毎回場所も人も異なる現場に、不規則な就労時間。そんな環境の中で、常にベストな状態でいることが求められます。

どんな職業もそうだと思いますが、モデルにも代わりはいません。一度決まった仕事は、余程のことがない限り延期することはできず、這ってでも行かなければいけない…今回は、そんな責任の重さを痛感したエピソードです。

◆真夏から真冬へ。全員が発熱

9月末、まだまだ暑さが続き半袖で過ごすことも多かったNY。そんな中、オーストラリアへの出張が決まりました。

南半球にあるオーストラリアでは季節が真逆のため、9月は冬真っ只中。撮影場所はその中でもさらに寒さが感じられるであろう、メルボルンから3時間の場所にあるマウント・ブラー、スキー場での撮影でした。

今までにも多少季節の異なる場所に行くことはありましたが、夏から冬という真逆の場所へ行くというのは初めての経験でした。

モデルの仕事は大抵が弾丸出張です。海外へ出張をすると、時差が影響して本調子ではなくなることが多いのですが、今回はそれに加えて急激な温度変化。
実際、20人近くいた撮影クルーのうち、現地のヘアメイクチームを除いたほとんどの人が翌日には熱を出すという事態に見舞われました。(朝から皆がぐったりとソファにもたれている光景を見たのは、後にも先にもこの現場だけでした。。)

撮影1日目。私はというと、それほど体調がかんばしくはなかったものの、久しぶりの出張が楽しみで張り切っていたこともあり、熱もなく撮影に臨むことができました。

寒がりの私は下準備として、ホッカイロを持参していたのも大きかったのかもしれません。ゲレンデでの撮影に備えて服の下にはもちろん、靴の中にも仕込むという徹底ぶりでした(クルーに1人、日本とアメリカのハーフの方がいたのですが、彼もモデル達のためにホッカイロを持ってきてくれていました…!お互いに「やっぱり日本人だねぇ笑」なんて話したりして。そんなちょっとした会話も楽しかったです)。

ゲレンデを歩いたり寝転がったり、5mはありそうな柵に登ったり(私は高所恐怖症なので気絶寸前。。)、普段なら経験できないような撮影ばかりで、寒さに鼻を赤くしながらも充実感を覚える仕事でした。

撮影2日目。さすがに雪の上に長時間座ったり、時差ボケを抱えながら撮影をしていたためか、私も途中から発熱。それでもなんとか自分のカットを終え、夕方前には1人先に空港へ向かいました。

実は翌日の朝、NYで別の撮影を控えていたのです。

ラストカット。このときは既にふらふらしてた。

◆時差ぼけ×風邪×遅刻

メルボルン空港へと向かう車中、そしてNYへ向かう機内においても、熱のため終始横たわっての移動。こんなことは初めてだったので、次の撮影を本当にこなせるのかと少し不安になっていました。

そしてこういう時に限って、飛行機が遅れる。。

だいぶ遅延があって到着したNY、朝。
空港に着いて携帯を開くと、SNSに通知が。開くと、次の撮影のキャスティングディレクターから怒涛どとうのDMがきていました。。

当初の予定では、空港からスタジオに直行すれば余裕で間に合うはずだったのですが、到着時には既に撮影開始ギリギリの時間になっていました。
マネージャーには「遅れるかもしれない」とあらかじめ連絡をしていたものの、ディレクターは直接私と連絡を取りたかったらしく、SNSアカウントに連絡をしてきたようでした。

「もう空港に着いた?」から始まり
「あとどれくらいで着く?」「タクシーは何番目に並んでいるの?」などなど…

間髪入れずに質問攻め。あまりにも立て続けにくることに耐えられず、その旨をマネージャーに伝えました。
すると、「もう無視していいわよ!遅れることは連絡してるんだから!」とのこと。無視っていう選択肢をくれるんだ笑、とそんなところに海外を感じて思わず笑いがこぼれ、少しだけ緊張が和らぎました。

そもそも先に決まっていたのはNYの撮影。オーストラリアへの出張はマネージャーが後から無理やりじ込んだため、それを正直にクライアントへ伝えるのははばかられる。そのためキャスティングディレクターへは、私が急遽母国である日本に用事ができて帰っていた、という設定で話を通していたようです。これはマネージャーが仕事を回すための常套手段なのだと思いますが…辻褄を合わせるのが大変だった!

というわけで、NYの西側にあるニューアーク空港から東側にあるブルックリンのスタジオまでタクシーにすっ飛ばしてもらい(もっとスタジオに近い空港もあるのに、こんなときに限って端から端)、約1時間遅れで到着しました。

スタジオに着き、「遅れてごめんない〜!!」と必死で謝りながら入ると、そこにはディレクターの姿はなく、撮影クルーとクライアントのたった5人しかいませんでした。

現場にいた皆は「AMI!!予想してたより早かったね!」と笑顔とともに出迎えてくれました。

いろいろなことが重なって不安に駆られていた私は、このあたたかい言葉に一気に気持ちがほぐれました。また「NO BIG DEAL!」と力強く言ってもらえたことで、”謝るのはもうここでおしまい、あとは撮影で返せばいい”と本来の自分のペースと集中力を取り戻すことができたのだと思います。

クルーのうち3人は日本語が話せたり日本人だったりと、母国語で会話できることにも安心感を覚えました。あとの英語で話す2人も明るくとてもNICEなキャラクター。場を大いに和ませてくれました。撮影もテンポよく進み、私の体調の悪さは何処へやら、あっという間に終わりを迎えました。

そうして数日ぶりに家に帰ると、プツリと糸が切れたかのように、疲れがどっと押し寄せてきました。その日はベッドに突っ伏したかと思うと、気絶するように眠りについたのを覚えています。

オーストラリアで熱を出したとき、NYに帰ったその足ですぐに撮影をしなければならないという予定を思うと、自分がどこまで持つのか、果たして無事に全てこなせるのか、と楽しみにしていたはずの撮影にも、不安しか感じられなくなっていました。”自分しかいない”というこの仕事の重責を身を以て感じた瞬間です。もし、ここで自分がやりきることができなかったら…撮影に集まったクルー以外にも、この仕事に関わっているであろうたくさんの方々に迷惑をかけてしまう…。

そんなときに、現場の彼らが発してくれたあたたかい言葉と空気には、本当に助けられました。彼らの人柄なくしては成り立たなかった撮影だったと思います。

心身共に大変な数日間でしたが、そんな中でこなしたその先には、嬉しいハプニングも待っていました。
最後に撮影をしたNYのクルーと、友人関係を築けたことです。撮影はたくさんあるけれど、そこから仲良くなってプライベートの時間まで共有するというのは中々ないことだったので、私にとってはとても嬉しい出会いとなりました。

数ヶ月後、その仕事が様々な国で公開されました。そしてさらに嬉しいことに、日本でも目にする日がやってきたのです。
ブランドの日本上陸に際して、鈴木亜美というモデル名を明記してもらった上に、「アジア人で初めてこのブランドの広告モデルを務めた」という内容までつづられていました。広告の撮影でモデルの名前が記載されることなんて滅多にないところに、この書かれ方…!自身にとってはもちろん、アジア人全体にとっても意味のある起用だったんだと思うと、尚更嬉しかったです。

Christian Louboutin beauty

◆後日談

後日。その仕事が終わってからしばらく経ってのこと。当時私が住んでいたブルックリンのブシュウィックという地域で、ローカルマーケットのようなイベントが催されました。

友人数名と楽しんでいたとき、「AMI…AMI!!」と背後から呼ぶ声が。振り返ると少し浅黒く焼けた肌の外国人女性が立っていました。この人誰だ…?と思っていると、「この前の〇〇仕事、本当にありがとう!クライアントがとっても喜んでいたわ!!」と話しかけられました。

…あ!!怒涛のDMを送ってきたキャスティングディレクターだ!!!

話を聞くと、どうやら今日のこのマーケットの運営側をやっているらしく。この前の仕事はオーディションがなく彼女の顔も知らなかったため(あちらはキャスティング時点で私の顔を資料で何度も見てたからわかるんだよね)、最初は気がつきませんでした。

あのDM事件で、感情的でやっかいな人だなぁと思っていましたが、実際に会って話すと明るくて気さくな女性。あの時はただ単に、現場にいないからこその責任があって、クライアントやクルーに迷惑がかからないよう必死だったんだろうな…と思い直すことができました。人の一面だけを見て決めつけちゃいけないよね。少し反省しました。
結果、あの仕事に関わった皆が素敵な人だったとわかり、また出会いに感謝することとなりました。

◆おわりに

もちろん体調によっては頑張りたくても頑張れないときもあるし、人にうつすことを考えたら休むべきときもあります。けれど自分が休むことで迷惑をかけることを考えたら、簡単に判断を下すことはできません。。

どんなに日々の体調管理を徹底していても、どんなに準備をして行っても、撮影当日にどうしようもない体調不良に見舞われることがあります。そんなときはどうしたらいいのか、今でも正解がわからなくなります。最後まで撮影を乗り切れるかどうかは、もはや運です。

今回は周りに助けられてなんとか乗り越えられましたが、自分の代わりがいないという責任の重さを強く実感した経験でした。
それにしても、オーストラリアとNY、どちらの撮影クルーも本当に素敵な人ばかりだった!

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