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焦っても諦めない

先日出たショーでのこと。ここ数年で何度か出たことのあるブランドのもので、重低音の効いたテンポのいい曲に合わせて歩くことも多い、緊張感はあれど楽しい現場です。

今回はどんな曲で歩くのだろう?と楽しみにしていたのですが、リハーサルが始まった瞬間、自分の心が動揺するのを感じました。いつも決まって、終盤のイブニングシーンのみゆったりとした壮大な曲に切り替わるのですが、なんと今回は、初めから終わりまで全てスローな曲調とのこと。ウォーキングの実力が試されているかのようなスピード感に、一気に身が引き締まりました。

◆ゆっくり歩く力

ある程度のスピードを出せば、格好良く歩くことはできる。ウォーキングに関して一番あらが見えやすいのは、ゆっくりと歩くときです。

モデル目線はもちろん、そうでない人から見ても明らかに歩けていないのが分かってしまう、リスクを伴うスピードです。それはヒールでもフラットでも。パッと見は、フラットシューズで歩くなんて余裕!かのように思われますが、普段何も考えずにサクサク歩けてしまうからこそ、ゆっくりにした瞬間、体重移動や細かな足の動きなどの基礎ができているのかどうか、差が出ます。速く歩くことはできても、ゆっくりだとぎこちない…そういう人は意外にも多くいます。

また、歩けていてもなんだか格好良くなくて、手持ち無沙汰に見えるということも。歩いている本人の「ゆっくり過ぎて何をしていいのかわからない」という迷いや、があり過ぎて考えてしまう「これで大丈夫かな?」という不安は、即座にまとう空気に現れます。綺麗に歩くのは難しく、また歩けても格好良く見せるのはさらに難しい、それがゆっくりなウォーキングです。

◆「ロボットみたいな〇〇」

昔、別のショーの現場で、リハーサル時に皆の前で一人だけ歩かされた記憶があります。後から聞いたところ、その現場のやり方を教えるという名目で、新人には経験させることが多かったみたいなのですが、そんな事情を知らない私にとってはショックで恥ずかしい出来事でした。

同年代の子もいるのに、自分だけ何度も歩かされる。。アドバイスをもらっても、すぐに直せないのが悔しい(それは当たり前かもしれません。ウォーキングの基礎を数分で直すことができたなら、苦労しません)。

今考えれば、技術的にまだまだ下手だったこと、当時の東京コレクションのように一直線上を勢いよく歩くだけのものとは違い、お客様により近い距離で服を魅せるフロアショーの経験が少なかったこと等、考えられる理由はいくつもあり、私が指導されるのは至極当然しごくとうぜんのことだったのかもしれません。

しかし、本当に悔しかったのはこの後でした。

休憩中に現場の方が「あの子、歩き方がロボットみたいなんですよね」と言っているのを聞いてしまったのです。一人で歩いたときもショックでしたが、この言葉が、最後に少しだけ残って私を支えてくれていた自信を、跡形もなく吹き飛ばしていきました。悔しかった。その後に控えていた本番をどのように乗り切ったのか、正直覚えていません。

それからというもの、私は自分のウォーキングを「ロボット」と言われないよう、本番やリハーサルの動画をよく見返すようになりました。

本当は見るのが嫌だった。動画を見たら、自分が下手なことを認めなければいけない。でも、上手くなるためには避けて通れない。いつもビクビクしながら自分の姿を確認していました。しかしいざ見てみると、現場で歩く自分の姿は、恥ずかしい気持ちを除いてしまえば、レッスン中に鏡で見る自分とはまた全然違う、自身を向上させるための貴重な映像資料でした。

また、現場で周りのモデルのウォーキングを見ることは、想像以上に勉強になりました。先輩方のウォーキングが格好良くて参考になるのはもちろん、年下でも場数を踏んでいる子、活躍している子のウォーキングを見ることはとても刺激になりました。それはレッスンでは得られない、センスの部分を見れる機会でもありました。

また、歩けない子のウォーキングを見ることもとても勉強になりました。以前私が言われていたことはこのことだったのか、ロボットってそういう意味か…自分が言われてきたことを他者を通して見たときほど勉強になるものはありませんでした。誰しもに歩けない時期があり、そこから抜け出すには本人が頑張るしかない、けれど頑張って抜け出した先にはまた別の悩みがやってくる。そうして永遠に悩み続けるのかなと思います。

レッスンを卒業すると、注意してくれていた先生がいなくなり、自分で改善することが求められる。だからこそ、誰かがアドバイスを受けていたら、他人事だと思ってスルーしない。「自分にもそうなっている可能性があるかもしれない」と思い、見直すことを心掛けました。

そうしてもがいている間、「ウォーキングが上手いなぁ!」と思う子に何度も出会いました。技術、センス、表現力が揃ったとき、思わず褒めずにはいられない。やりすぎないけどやらな過ぎない。そんなバランス調整が上手い子にいつも惹きつけられました。

「あの子のウォーキング上手いね!」と周囲が言っているのを聞く度に、納得するとともに、私は言われないなぁと小さく嫉妬して落ち込むこともありました。私もいつか…!…そんな気持ちも原動力の一つとなり、ウォーキングする日々が続いていました。

◆ショー中の一言

迎えた今回のショー。ヘアメイクをし、衣装を着て、歩き出して思います。

「やっぱりゆっくりは難しいな〜!苦手だな。」
「いや、でも格好良く見せたい!」

そんな気持ちのせめぎ合いです。最終的にはクヨクヨした気持ちを打ち消して歩くのですが、それでも毎回頭の片隅で、どうやったらもっと格好良く歩けるんだろうと考えていました。

せっかく苦手分野をやるなら、上達して帰りたい…!有り難いことに、一日に何回もショーを行う現場だったので、毎回ほんの少しずつやり方を変えて、自身のウォーキングのいい形を探っていくことができました。

そして、ショーも残り回数が少なくなってきたときに、その出来事は起こりました。

4着目を着てイブニングシーンを歩き終わったとき。歩きも上手かったし、表現としても申し分なくできた気がする!と、自分の中で手応えを感じました。湧き上がる嬉しさを抑えつつも、最後に待っているフィナーレに向け並んでいたときです。イブニングシーンで私のうしろを歩いたメンズモデルに話しかけられました。

「Your walking was so good!」

突然の出来事だったので一瞬固まってしまったのですが、理解した途端、

え!私のウォーキング褒められた、、、!

とその場で飛び上がりたいくらいの気持ちになりました笑

苦手分野を褒めてもらえたことはもちろん、自分の中でも手応えを感じたタイミングで声をかけられたことが、「これでいいんだよ」と今までのやり方を認めてもらえたようで余計に嬉しかったのだと思います。具体的なことは聞かなかったけれど、その一言は私にとって大きな励みになりました。

「ああ、私でも続けていればその言葉がもらえるんだ。」ウォーキングはすぐに成果が出るものではないと思っているし、これから先も時代の流れとともに変化していかなければいけないもの。終わりのないものだからこそ、時々わからなくなる。そんなふうに思っていたところに、この先も続けていくための勇気をもらった気がしました。

やっぱり言葉ってすごい。たった一言がとてつもない力を持っています。彼がわざわざ口に出して伝えてくれたことが本当に有難く、感謝しかありません。今は成長を感じられなくとも、続けていればこんなことも起こります。だから、できないことに焦って諦めない、続けることをめないでいたい、今回はそんなお話でした。

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