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本番当日さえ気を抜けない

海外のコレクションに行くようになってから、経験者である周りの先輩から、「海外はオーディションはもちろん、本番当日も、ショーが始まって自分が歩くまでは油断できないよ」と聞いていました。始めた当初は「本当にそんなことってあるのかな??」という気持ちでいたのですが、ついに、私も経験者となる時がやってきました。

何度目かになるNYコレクションでのお話。

◆フィッティング時の違和感

ショーに出演するためには、オーディション→フィッティングの順番で行われるのが常ですが、そのブランドに関しては、いきなりフィッティングからのスタートでした。
と言っても海外の場合は、フィッティングをしたからといって出演決定にはならないので、フィッティングとは名ばかりの、実質第2審査に呼ばれたような感覚です。

とあるマンションの一室に行き、渡された服に着替えると、歩くスペースもほとんどないような場所でほんの少しだけウォーキングをしました。それを、デザイナーと思われる男性が難しい顔で見ている。。。

こういう時のモデルって、嗅覚が鋭いというか、経験値なのか…自分が興味を持たれているかどうか、感じ取っていることが多い。たとえ"聞こえのいい"言葉をかけられていたとしても。
私はこの時、”あ、これは無さそうだな”と瞬時に思いました。

しかし数日後、そのショーの本番が決まったとの連絡がマネージャーから入りました。”え?あのフィッティングで決まったの??”と私も半信半疑でしたが、決定は決定。メールに書かれた"confirmed"の文字にはやっぱり嬉しい気持ちになりました。

入り時間は翌日の午前6:15。1日何本ものキャスティングに回り疲れ果てた体も、本番が決まったと聞けばなんのその!ショー当日を楽しみに、その日は22時には就寝しました。

◆本番当日

当日朝、会場であるホテルに10分前に着いた私は、どこから入るのか入り口をうろうろ。他にショーモデルらしき女の子もいないし中々入り方がわからない(いつもなら同じような高身長女子がいるので、ついていけば会場にたどり着けます笑)。

やっとのことで中に入ると、撮影機材を組んでいる数人の男性に遭遇。思い切って話しかけると、軽やかな空気感を持ったお兄さんたちで、その日のショーのルックを撮影するチームとのことでした。
他に誰もいないけど、ショーの集合場所はここで合っているか聞くと、「ここで合ってるけど、集合時間は6:45に変更になったらしいよ」とのこと。

ええ!そんな時間変更聞いてない…と思っていると、もう一人モデルがやってきました。時間変更のことを告げると、その子も変更を聞かされていなかったよう。その場で一緒に待つことになりました。

彼が言った通り、45分に近づくにつれ、徐々に人が集まり始めました。

程なくしてヘアメイクチームも作業を開始。私はこの段階で一度、ヘアチームに呼ばれたのですが、席に座って彼らが取り掛かろうとしていたところを、進行を受け持つチームの女性が一人、「別の子からやって」と止めに入りました。

そのあとは、メイクチームからも呼ばれることなく、携帯で時間を潰しながら待っていたのですが…

一向に呼ばれないなぁと思って周りを見渡したとき、先ほど私に声をかけてきた女性が、チラチラと視線を送ってきている。。。今までに経験があったためか、なんとなく悪い予感がし、けれど心を落ち着かせようと携帯に視線を戻した時、彼女が近づいてきて私に言いました。

「Ami、私たちはあなたのことキャスティングしてないの。だから帰って大丈夫よ。」と。

…?

一瞬何を言っているのかわからない、いやむしろ、わかりたくない…という気持ちが湧いたのですが、他のモデルやスタッフがいる大勢の中で言われたのも恥ずかしかったんだと思います…体はすぐさま反応して立ち上がりました。

何が何だかわからないまま、モデルやヘアメイクチームの間を縫って退出しようと歩いていくと、行く先にデザイナーの姿が見えました。私は彼の方を見ましたが、彼の方は一切目を合わせようとしてくれず、、どういう感情を持っていたのかはわかりませんでしたが、明らかに私を避けたようなその姿に、とても傷ついたことは確かでした。

朝の6時に会場に着いてから、2時間が経過していました。そして自宅に帰ったのは8:30。普段と変わらない近所の朝の風景がありました。

◆原因

もちろん、会場を出てすぐに事務所に連絡。

「たった今、現場で、Amiのことはキャスティングしてないって言われて帰ることになったけど、どういうことかな?」

担当のマネージャーからは、確かにAmiはキャスティングされてるよ!ここに書いてあるよ!とクライアントからのconfirmedメールも添付された返信がきました。

でも、会場では実際に”キャスティングしてない。帰っていい”って言われちゃってるんだもの…

以前オーディションでもこういうことがあったのですが、ショーの本番当日に帰されたことはこれが初めてだったので、とてもショックでした。この時のことを思い出すと、書いている今でさえ悲しい気持ちになるくらいです。

一体どうしてこんなことになったのか…結局原因は分からないままでした。
事務所のヘッドブッカーが「いつもダブルチェックはしてるけど、これからはさらにチェックするようにするよ。嫌な気持ちにさせて本当に申し訳ない。あちらのミスだから、ギャラは払ってもらうよ」と丁寧にメールをしてくれたことが、唯一の救いでした。

けれどこの出来事以降、私はどんなに「この仕事は是非Amiにやってほしい」とか「当日よろしくね!」とか言われても、素直に受け取ることができなくなりました。
当日を迎えて歩くまでわからない、カメラのシャッターが切られるまでわからない、さらに撮影したものが公開されるまでわからない(モデル数人の内、私一人だけ写真が掲載されていなかったことも多々あります)。

◆経験のシェアをする理由

こんな悲しい気持ち、誰にも味わってほしくないけど、よく聞く出来事でもあります。
でもそのお陰で、以前よりタフになった自分がいるのも事実。決して悪いことだけではなかったのかなと、過去になった今は思っています。

もしこの先、モデルをやっている人でこういう出来事に遭遇したとき、そういえば鈴木亜美っていうモデルの人もこんなことを経験したって言ってたなぁ…って思い出してもらえると、理不尽な出来事に対する気持ちが少しは軽くなるかな、、なったらいいな、と思って書きました。
辛いのは自分だけじゃないって思うと、ちょっとだけ元気になる瞬間があると思うんです。経験のシェアって、そういう意味でも大切かなと。

私も、先輩たちが言ってたのはこれかぁ…と気持ちを持ち直しました。
あんなにサクッと話してくれたけど、実際はこんなに悲しい気持ちを味わっていたのかと思うと、先輩たちが海外に行く私になぜこんなに優しく接してくれるのか、ほんの少しわかった気がしました。

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