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「在外邦人なんでも1000」No.005 ラブもトラブルもストーリーは突然に!

これは、神田英明氏が発行するニュースレター「在外邦人なんでも1000」のバックナンバーです。
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 海外暮らしを長くしていますと、日本で生活している老親のことが年々ますます心配になってきます。健康だろうか。食事や買い物はちゃんとしているだろうか。認知症の兆候はないか。心配事は尽きません。

 親の介護問題は、突然の怪我や認知症、脳卒中などをきっかけに急に発生することが少なくありません。突然の出来事ですから、周囲が慌てるのは当然です。そのときに、ご本人も周りのご家族もアタフタし軽いパニック状態に陥ります。何をしたら良いか分からなくなってしまうのです。

 ところで、人が不意な事態に巻き込まれて困窮してしまうのは、トラブルの原因となる出来事が「突然」訪れるからです。もし不幸な事態が予め明確に告知されていたのであれば、人はそれほど狼狽しないで済みます。例えば、○年○月○日の○時に自宅が火事になると事前に予告されていたら、それまでに種々の対策を講じる余裕がありますから、意外と困窮する事態にはなりません。困窮する原因の多くは、問題が「聞いてないよォ!」状態で突然目の前に現れるからです。そして、この「聞いてないよォ!」状態は、兄弟同士での「どうぞどうぞ」という押し付け合いをますます強めるでしょう。

 ということは、「突然」という要素を極力ゼロに近づけていけば解決の糸口が見付かります。この視点が、在外邦人が抱える日本にいる親の介護問題を配慮する上で重要な解決キーとなるのです。

「突然」を除去する2つのポイント
1 海外にいても出来る事、今からでも出来る事を行っておくこと
2 親が元気なうちに、親の経済状況と希望を事前に確認しておくこと

1 海外にいても出来る事、今からでも出来る事を行っておくこと
 親の介護問題に関して、海外にいても出来る事、今からでも出来る事とは何でしょうか? それは、親御さんがお元気なうちに、複数の本や情報に当たり、必要な正しい知識を獲得しておくことです。

 まずは、要介護認定(要支援1・2と要介護1~5の区分)と介護保険サービスや機関(地域包括支援センター、役所の介護保険課、居宅介護支援事業所、デイサービスセンター)についてある程度学んだら、海外から地元の地域包括支援センターに連絡をしたり、一時帰国の際に事前訪問して、色々と教えてもらいましょう。その際、いざというときに備えて、頼りになる方個人の連絡先も教えてもらうことをお勧めします。
 また、医療費(高額療養費制度や後期高齢者医療制度)について知識を得ておくことも必要です。
 さらには、法律的知識もある程度重要となってきますので、預金管理や家族信託など、可能であれば専門家から色々と教わっておきましょう。
 終の棲家に関しては、最近は老人ホームに代わって、ほぼ最後まで自宅で支援を受けつつ生活するライフスタイルが重視されています。それを可能にする方法を探りつつ、老人ホームの各類型(介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、ケアハウス、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)の特徴を調べておくと、いざというときにスムーズな計画が立てられるようになります。
 親の介護問題全般に、今から強くなっておきましょう。

 突然の出来事で、現場がアタフタしているときに、海外から、日本の家族へ必要かつ適切な知識を迅速かつ十分に伝えることができたら、非常に心強いですし皆んなが助かります。海外にいても、何をすれば良いかを今から事前に学んでおくことは可能です。
 得てして、在外邦人の方は、日本に頻繁に帰国して親の面倒をみれないことから、必要以上に罪悪感を感じがちです。しかし、海外在住者にとっての親孝行は「海外にいても今、出来ることを精一杯行うこと」です。負い目を感じる必要はありません。
 それどころか、在外者ならではのメリットもあります。はるばる外国からの問い合わせということで、問い合わせの窓口が真摯に対応してくれる確率が高いです。また、親御さんと距離的に離れている分、落ち着いて客観的に問題に取り組めるという大きな利点があります。

2.親が元気なうちに、親の経済状況と希望を事前に確認しておくこと
 子、つまり、兄弟姉妹の間がギクシャクする最大の原因は、介護問題が「突然」目の前に現れるからです。70~80代の親を持つ子の年齢は50歳代です。50歳代といえば、会社では中心的な役割を果たし、家庭では住宅ローンや教育ローンを抱える時期でもあります。時間的にも経済的にも余裕がない時期です。このような時期に突然、親の介護問題が浮上したら、各家庭に益々トラブルを引き起こすことでしょう。
 この解決も突然という要素の早期除去にあります。親の資産(貯金や保険や年金を含む)などの経済的事情と、親の希望を、親御さんがお元気な内から予め聞いておくのです。親の資産で介護費用をどこまで賄えるかという点を、早い内から家族全員で共有し、どのように助け合っていくかをアクシデント前に判断して、織り込み済みにしておくことが重要です。


 実は親と長時間、より密接に過ごせるのは、日本に住んでいる子よりも、数週間の一時帰国中の子という場合も多いです。幼い頃の思い出話や親から初めて聞く話など、短期間だからこそ集中してお喋りできる環境があります。お喋りの合間に、普通なら話題にしない内容にも踏み込んだり、海外における状況、例えば、個人の自立の姿勢は海外では当然だという会話ができたり、終活問題にズバリ踏み込めたり、親からストレートな希望を聞き出し易いのも、すべて在外邦人ゆえの特権です。

 予想されるアクシデントに備えることが、自分自身のこれからの人生を思い通りに生きるために、とても重要なことです。今から事前準備をして、充実した自律的な人生を送られてください。

「なんでも1000」No.023>「在外邦人なんでも1000」No.005
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神田英明(民法学者・東京弁護士会弁護士)
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神田英明氏のプロフィール

民法学者(明治大学)、弁護士(東京弁護士会)、法曹教育の第一人者(司法試験首席合格、20歳合格者を輩出)。教え子弁護士が全国各地に100人。
自身の海外経験をもとに、遺産相続に関するミュンヘン講演(在ミュンヘン日本国総領事館後援)や「親が認知症になる前にすべきこと」のフランクフルト講演、「脳が喜ぶ勉強法」という教育に関するデュッセルドルフ講演、さらには国をまたいだ往来が気軽にできなくなった状況をふまえ、世界規模でのzoom講演(「日本にいる老親のためにすべきこと」など)を開催中。
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