兄が大好きで他称ブラコンの僕と兄の話

僕は兄が大好きだ。
恋愛感情としてではない。家族愛、人間愛として兄が大好きだ。

僕の兄は自閉症。重度の知的障害がある。
しかし、兄は恵まれていた。
知的障害など障害があると疎まれる人もいるし、なんなら昔は隔離されたりしていたと言う歴史的事実もある。

兄が生まれた時、祖母の妹は「天使」と兄を可愛がった。
祖母の妹も変わった人で、戦後に国際結婚だわ、自分の名前と戦時中で取れなかった学歴が嫌で通名を作り学歴を詐称するような人ではあった。

兄と僕が生まれる間に亡くなったので、僕は写真でしかその人を知らない。
しかし、祖母と母曰く、遊びに来るといつも兄を天使だと褒め、かわいいかわいいと言っていたそうだ。

自閉症は検診を受けていても発見などは遅く、兄も2歳になる手前で自閉症とわかったらしい。
それでも祖母の妹の天使と呼ぶ姿は変わらなかったという。

そして祖母の妹が亡くなって、僕は生まれた。
兄の妹として、兄の存在が当然の家庭に神様に選ばれたかのように。

自閉症の人間は表情も乏しく、コミュニケーション能力も低い。
兄も機嫌がいいも悪いもうなり声と表情で見分ける、数少ない言葉から見つけるなどしかなかった。

それでも祖父母は「孫は隔てなく育てる」と言う信念の下、僕ら4人の面倒を見ていた。

(先に言っておくがそれでも兄は祖父にめちゃくちゃかわいがられていたため、おいしい物は先に食べさせてもらっていたし、祖父がみんなででかけられるようにと買ったワゴン車の助手席は兄の特等席だった)

小学校も特別学級とは言え、クラスのみんなと関わる機会も多く、「〇〇(兄)の妹だから」と近所の兄の同級生の女の子が遊んでいると声をかけてくれたり、バレンタインには学年で1番の数もらってきてるんじゃないかというくらいのチョコレートをもらって帰ってきた。
しかも、みんなバカにしてというわけではなく、本当に兄が好きで、同級生として認めてくれ、たくさんの愛を与えてくれていたのだ(多分本人はわかっていない)。

中学校から当時の養護学校に進学することになっていたので、卒業前にはお世話になった先生を家庭科室に呼び、母と兄妹で用意したカレーなどで一人謝恩会を学校側もさせてくれた。
寂しくなると泣いてくれた先生もいた。
小学校での授業中は私も兄と会えないので知らなかったが、兄は基本ニコニコしてほかの生徒の邪魔をするようなこともなく、一緒に受ける体育と図工は楽しそうにしていたそうだ。

僕は兄がいる環境が当たり前で、何があってもこれが普通と思っていた。
実際健常者しかいない家庭は違うし、他の苦労もあると思う。
僕だってスーパーで行方不明になる兄を追いかける担当としていつも買い物について行ったりなんだりと友達と遊ぶ時間より家族に割く時間が多かったのは事実だけれど、それでもこうやって愛されて兄がニコニコとしていて人間関係の相乗効果というものが生まれているんだと思って兄を尊敬の目で見るようになった。

社会人になった兄は最初の会社ではうまくいかなかった。
障害があるということでいじめられたりしていたようで、うなり声を上げ癇癪を起こし、自傷行為をしてしまうことも多々見られた。
ある日市役所へ行ったとき、福祉課の人に新しい施設ができてパン工房が入ると聞かされた兄の心は動いた。

「施設入ります!パン作ります!」

兄は自分で決断をした。
母も僕も目をまんまるくして、ハトが豆鉄砲を食らったようとはこういう事かと諺の有意性を感じたのはこれが初めてだったろう。

施設への入居は兄の一言であれよあれよと進み、引っ越しの日も荷造りを自分でして母の車に積み、到着しても荷物を自分で運びしれっと「バイバーイ」と言った兄に呆気に取られたのはもう何十年も前のことなのに鮮明に覚えている。

それから兄は帰省の度にお給料を手にファミレスでご飯をごちそうしてくれたり、母の誕生日にはケーキ屋に連れてけといいケーキを買ってくれたそうだ。
僕がご飯をごちそうすれば「ありがとう!」と言えるようにもなった。
そうやって何かを1つ1つクリアして人間らしくなっていく兄にその度にびっくりさせられ、涙させらるのだ。

いつの間にか僕の脳と精神年齢は軽く超えてしまっていたけれど、兄を下に見たことはない。そして兄がいて当然な家庭環境に生まれたことを後悔したことは生まれてこの方本当に一度もない。
周りの人の迷惑になっていないかなとか考えたりなんだりすることは今までもあったりしたけれど、家族として兄が僕たちを好きでいてくれるからこそ僕は家族して好きだからサポートもする。
僕もだんだんと年を取って、僕よりも体力の有り余る兄についていけなくなる時はあるけれど、僕は母に何があっても兄は死ぬまで守っていくとずっと心に決めていきてきたし、これからもその気持ちは変わらない。
今の僕の彼氏は仲良しだね!と笑ってくれているし、僕が兄を思う気持ちも大切にしてくれている。そして「お兄さんを守ってあげよう」と言ってくれている。
兄がくれた気持ちが僕の周りの素敵な人間関係も産み、僕も兄の為に動ける。

感謝してもしきれない、尊敬できる愛すべき兄。これからもずっと元気でいてくれよ。

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