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インターネットに真実を見る人々

副題:オカルトは死んだらしい

先日自宅待機が暇すぎて、ムーを買ってしまった。アダムスキー型UFOといえば、ムー民にはすぐにどのような形状のUFOであるかわかって頂けるだろう。その祖であるアダムスキーは、近年ではその数々の写真に疑義が生じており、信憑性は低いと言われている。しかし、最近の研究で実はアダムスキーの写真にはUFO以外の「ある事実」が写っていたのだと判明した――

という感じの記事が載っていた。いつものムー噺だと思う。何が起きてもイルミナティの陰謀なんですよ。すべては仕組まれたことなんです。マヤ暦によると――

と、まあこのような調子ですね。ムーはいつも変わらないなって安堵する。こんなむちゃくちゃを書いてるのに、ムーに怒る人はいないだろう。それはムーが空想娯楽科学雑誌というのが周知されているのに加え、編集者の線引きがきちんとできているからである。NASAは怒らない。しかし共産党と言えば怒られるかもしれない。この辺りの線引きの妙、ムーはトンデモ雑誌ながら、教養がなければ記事は書けない。

しかし近年このような「オカルト」は姿を消している。オカルト文化に詳しい専門家曰く、「人々にオカルトを楽しむ余裕がなくなってしまった」と。怖いというクレームだったりやらせというクレームだったり。いつから人は「ネタにマジレス」するようになったのだろう。オカルトは主語がものすごくでかかったりこの世に存在しないものであるので、今流行りの「誰も傷つけない」コンテンツなのだが。

しかし、一見廃れたオカルト文化はインターネットに生きていたのだ!!

オカルトでよく使われるワード、「工作員」でTwitter検索してみよう。

うおおおおお!!!!めっちゃ工作員おる!!!!!ムーで見たやつだ!!!!

思わず興奮してしまった。このような陰謀論こそオカルトである。
However(しかしながら)、いわゆるムーのようなオカルト文化とこのようなネット上の陰謀論の違う点は、対象が小さかったり実在するものであったりする点である。ムーがNASAや宇宙人に対しての陰謀論を働かせているとすれば、インターネットでは政治家や芸能人に対しての陰謀論を働かせているのである。オカルト愛好家からすると、小さすぎてまったく面白みがない。やはりオカルト死んでしまったのだろうか。
ムーは怒られないラインを守っていると先述したが、インターネットはもう簡単に飛び越えてくる。まあ別にいいが。いいのか?

陰謀論というのは突き詰めるとなんにでも当てはまってしまう。

たとえば、あなたは同期なのにどんどん出世する女性のことが内心気にくわない。ある日、彼女は重役のお気に入りなのだという話を耳にする。なんの根拠もないが、あなたはそれで溜飲を下げる。
そのような経験はないだろうか。ごくごく身近に起こりうる「陰謀論」である。彼女はひいきをされているから出世するのだ。という。

ムー読者は陰謀論をエンタメとして消費しているのだが、インターネットで陰謀論を巡らせている人々は、それを「真実」として見ている。
「自分を差し置いて出世する女性が重役のお気に入りだ」という話は、これはつまり、嫉妬心から彼女には何かの力が働いて――平たく言えば「ずる」をしていて、今の地位を得たのだとしたいという心理だ。
インターネットの陰謀論のほとんどはこの心理から来ている。「自分の気にくわないものが上にいるのは(あるいは自分の好きなものが下にいるのは)○○だから」という理由付けがしたいのである。

ところで、世の中のほとんどにはあまり意味がない。たとえば私が電車通勤をしているのは会社で車通勤が禁止されているからで、諾々と電車通勤しているだけの話だ。このように、特に意味のない事柄を意味があるかのように繋げていくのが陰謀論である。
たとえば私の家の近所で事故が起きた。それは私の通勤時間であった。そして私は電車通勤であるのでその事故には全く関係がない。しかし陰謀論では、私は「事故が起きるのを知っていて電車で通勤していた」ということになる。
「知りませんよ、私は会社に言われて電車通勤していたんです」と言っても、それ(知らなかったこと)を証明しろ、と言うのが陰謀論者である。

それらのことを組み合わせ、理論立てているつもりになって、真実を見ている人々。彼らに「それすごいですね、じゃあ警察に言えば?あるいは週刊誌にでも売れば?」と言っても無駄である。彼らにとっては警察だろうがしょうもない週刊誌だろうが、自分が見た真実に対してアクションをしないものはすべて「敵」なのである。
これらの人々は謎の仮想敵を攻撃している事も多く、とにかく「自分は何かと戦っている」と考えている人が多い。その相手はエイリアンでも妖怪でもない。「自分と意見を異にする人」「気にくわない人」である。

それらを見て思う。やはりオカルトは死んだのだ。幽霊だ宇宙人だというようなある意味では牧歌的な存在は、今求められていない。もっと自分の嗜好を満たしてくれるような身近なものでなければならない。イルミナティは今や、一人の芸能人や政治家のために動いている。国を動かす私たちのイルミナティは死んでしまったのだ。

インターネットに真実が落ちているわけがないだろう。知られてもいいからインターネットに載せるのである。所詮我々の見ているインターネットは「表層ウェブ」に過ぎない。
真実は「ダークウェブ」――インターネットの情報の中でも95%もあるという、我々の見ることができない闇のウェブ……そこにあるのだから。(ムーのオチ)

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