見出し画像

【読書】鳥呑み爺のヴァリアシオン    Oiseaux et pets

(とある冊子に寄せた文章です。夏に書いたものです。)

鳥呑み爺のヴァリアシオン 
トリ ト オナラ ノ オハナシ Oiseaux et pets

 わりと山の近くに住んでいるので、鳥の声はふんだんに聞こえます。鳥に詳しくないのでどれがどの鳥の鳴き声かあまりよくわかりませんが、5月、6月は近所の藪からウグイスの鳴き声が聞こえていました。
 今(7月)、庭は薔薇の盛り、日曜日の朝夕は、薔薇の枝や桜の枝の間でスズメが遊ぶ声がかわいらしい。(ただ、夜半にギャオンギャオンとなくキツネと午前3時にガーオガーオ鳴き出す暁烏(アケガラス)だけは勘弁してほしいですが。眠れない…。ちなみに、春に鹿も出たけれど、鳴き声は聞きませんでした。)

 以前も鳥の聞きなしの話を書きましたが、今回も鳥にまつわるお話をと思って探した本棚でこんな物語を見つけました。


💎小鳥の屁(ペナンぺ放屁譚) 
 パナンペ(川下の者の意)がこくわの実をとりに山へ入ると、小鳥がよい声で鳴いていた。
 カニ ツンツン ピィ ツンツン
 カニ チャララ ピィ チャララ
パナンペが感心して小鳥を拝むと、小鳥はパナンペの口に飛び込み、腹に入った。パナンペが家に帰り、妻に屁をひって聞かせると
 カニ ツンツン ピィ ツンツン
 カニ チャララ ピィ チャララ
とよい音で鳴ったので、毎日それを聞きながら笑って暮らしていた。噂はお殿様に伝わり、御前で放屁してみせると、お殿様も家来も大喜び。パナンペは褒美をもらって長者になった。
 同じく貧乏だったペナンぺ(川上の者の意)は嫉妬して、御前での放屁のいきさつをパナンペから聞いた。お殿様に呼ばれたが、その前に出された御馳走をどっさり食べていたため、思いきってきばると、よい音が出るどころかバタバタと糞が飛び散ってしまった。お殿様や後家来衆はカンカンに怒ってペナンぺを叩いたり斬ったりした。血だらけになってもどったペナンぺ。妻は褒美をもらって帰ると思い、ぼろの着物をすっかり炉の中へ放り込んでいたのでペナンぺ夫婦は裸で過ごし、つまらない死に方をした。パナンペはお殿様に招かれ続け、ずっと長者様で暮らした。

アイヌの昔話 ちくま学芸文庫 

 このお話はサハリンや帯広などで伝わっているものとのことです。鳥の種類は特定されていませんでした。何の鳥だったのだろう、知りたい。「カニ」という擬音がユニークですね。(アイヌ語で「カニ」は「金属》という意味。)
 「感心して小鳥を拝」んだパナンペ、すなわち、自然に対して敬意を欠くことがなかった男と、欲だけで行動するペナンぺの運命の明暗がわかりやすい。この話ではペナンぺが死んでしまいますが、パナンペ・ペナンぺの話は人気でこのほかにもいろいろあるようです。

 「鳥呑み爺」のモチーフは沖縄を除く日本列島全域に伝わるもので、東北アジアの朝鮮族、中国広西省の壮族ミャンマーのパラウン族で、何かを食べて芳屁が出た男と、それを真似して失敗する男の類話があるそうです。

 ウェブで類話を拾ってみました。


💎鳥呑爺 長野県
 ある日、お爺さんが山の畑で働き、お昼になったので弁当に持って来たかい餅を食べ、残りを木の枝に塗りつけて、その木の下で昼寝をしたところ、一羽の山雀(やまがら)が飛んで来て、木の枝に止まった。かい餅がくっついて、鳥がもがいている音で目を覚ましたお爺さんは、山雀を手にとって、その足についている餅をなめてとってやろうとした。 
  爺さんには歯がなかったので、餅を吸いとっているうちに山雀も一緒に、呑みこんでしまった。腹をさすっていると、山雀の尾羽の先がヘソからちょこっと出ていて、お爺さんがそれを引っぱってみたら、
 チチンプヨプヨ ゴヨノオンタカラ
 と、鳥の啼くようなオナラが出た。「ゴヨノオンタカラ」とはなんだかめでたい。お婆さんにわけを話して、二人で何度も何度も山雀の尾羽を引っ張って楽しんだ。そのうちお婆さんが、「こんなにめでたいオナラをふたりだけで聞いているのはもったいない。これは、お殿さまにもおきかせなされませ」と、すすめるので、次の日、殿さまの御殿へ出掛けて、御殿の裏の竹薮で竹を伐っていると、番人がやって来てとがめるので、「わしは、日本一の屁放(へひ)り爺でごじゃる」と、胸をそらせた。 
 お爺さんは、殿さまの前へ出て、ヘソのところに手をやり、山雀の尾羽を引っ張った。
 チチンプヨプヨ ゴヨノオンタカラ
と、いい音が出たので、殿さまはじめ、家来一同大喜び、「当家が栄えるめでたい屁じゃ」
という者もあって、お爺さんは大いに面目をほどこした。殿さまの竹を伐ったのもおとがめなしで、褒美をたくさんいただいて帰り、お婆さんとふたり、一生安楽に暮らした。


 
 ここでは、「ヤマガラ」と、鳥が特定されています。鳴き声も「ゴヨノオンタカラ」→「五葉(御用?)の御宝」と、めでたい意味に聞きなしています。「五葉」だとすると「五葉松」のことでしょうか。縁起のよい木とされていますし、「御宝」は文字通りめでたい。YouTubeで鳴き声を聞いてみたところ、わたしの耳には、囀りは「ツツピーツツピーツツ」、地鳴きは「ジージージージージ」と聞こえました。色がきれいでかわいいですね。YouTube便利。(あ、やっばりパナンペの鳥もヤマガラ系だったのかな。)

 これと似たもので、

 あや ちゅうちゅう こゆ ちゅうちゅう、錦(にしき) 
 さばさばさば、
 五葉(ごよ)の盃 もってまいりましょう
 ピピラ ピー

という鳴き声の鳥が口から入り、お爺さんが殿様の前で「放屁」するのではなく「歌を歌っ」て褒美をもらう、というパターンもありました。

 また、福島の民話では、お爺さんがが呑み込むのはシジュウカラ。へそに出てきた羽を引っ張ると

 ツンツン カラカラ
 ヒューヒューッ

 と面白い声で鳴くので見世物小屋につれていき、お金をたくさんもらいます。お爺さんがおならをしたり歌を歌ったりというのはありません。

 YouTubeで聞いてみると「ピ チュ ピ チュ ピ チュ」または「ツ ピ ツ ピ ツ ピ」と聞こえました。ちなみに聞きなしでは「土地 金 欲しいよ」や「teacher teacher」など。

 鳥の鳴き声「囀り(さえずり)」(繁殖期)と「地鳴き」(なわばり宣言)を聞きながら、いろいろ見ていたら、「さへづる」の語源として次の説明がありました。

①サヘは擬声語、ヅルは音ヅルなどと同語
②サヘ(障リの他動詞形)+出ル

また、古語に、

さへく という動詞、
こと-さへく 【言さへく】 

という枕詞がありました。外国人の言葉が通じにくく、ただやかましいだけであることから、「韓(から)」「百済(くだら)」にかかります。そこから連想が飛んで、(関連がないかもしれませんが、)

さへ-の-かみ 【塞の神】

などという語も浮かんできます。峠・村境などの境界にまつられて、悪霊や疫病などの侵入をさえぎったり、道路の悪魔を防いで通行人の安全をつかさどったりする神。道祖神です。

 「ことさへく」からは、『聞き耳頭巾』の物語(動物の言葉がわかる頭巾の力によって富を得る話。頭巾は、動物の命を救った礼としてもらうもの、善行の見返りに神仏からもらうものなど、各地でさまざな類型あり。)、聖書の「異言」まで連想してしまいました。
 意味のわからない音(さへづり)が意味のある音(コトバ)に変わるとき、世界が別な様相を表す、とかね。

         

大好きな初山滋さんの挿画の「ききみみずきん」

 さて、夏の到来です。いましばらく鳥たちの囀りに耳をすまして、その音が意味をもつもうひとつの世界の様相を想像するのもよいですね。(ただし鳥を飲み込んで放屁はやめておこう!!!)

💎追伸
 尾籠(びろう)ですが、鳥に関係なく「放屁」モチーフの話もたくさんあります。屁こき爺、屁こき嫁など。ゆかいゆかい。子どもの頃に好きだった話が、二人の屁こき爺の放屁比べ。ひとりが「びっちゅびんごのびったらこー」と放屁すると、もう一人がそれより爆音で「たんごたじまのだれならだっ」と放屁し、たじまの爺が勝つ話です。子どもはおならの話が大好きです。出物腫物ところ嫌わず。

                              2022.7.3 

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?