音楽で人は変わる
頭のおかしくなる音楽が演奏されると聞きつけこのピアノの演奏会にやってきた。
パンフレットには
(これは最後の曲です。
わたし「レ」と言いながら「ラ」を弾くと、すぐに頭がおかしくなれるの。
だけどねそうやって弾いてるのやっぱり耐えられない。
だから普通に戻って「ラ」と言いながら「ラ」を弾くんだけど、するとね、もはやそれでも頭がおかしくなるの。
そういう作曲者の想いが詰まっている楽曲です。)
と書いてある。
そして最後の曲の演奏が始まる。
「ラミソファシ〜ソソラファレドーレドファシミ〜」
ワー
「ソソラソラファミ〜ミ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やっぱりもう頭がおかしくなってるんじゃないのか?
「違うの今はね、休符がすごい続いてるのよ。3ページずっと休符なの。もうちょっと待っててね。」
喋ったりしてもいい曲なんだ
ペラっ
静寂のなか楽譜めくる係が楽譜をめくる
ペラっペラペラっぺぺらっ
楽譜めくる係は自分も表現者であることを切にアピールしだし、この時間を利用して楽譜をめくる音でなにか音楽みたいなものを生み出そうとしていた
音楽は生まれなかった
次に楽譜めくる係はグランドピアノの屋根を畳むとそこでフグを捌き始めた
その気持ちよく分かる
もうとにかくなんでもいいから「すごい」と言われたいんだよね
ここで演奏者が言った
「さぁお待たせ!ここからはみんなも一緒に好きな音を言ってね!」
みんなで歌ったりしていい曲なんだ
ホールにはドレミファソラシを同時に言ったかのような音が際限なく鳴り響いている
今なら、なにを言ってもバレやしない
「今捌かれてますけどフグは醜いですよね実に醜い知性の無い顔をしてますまあフグに限らず魚は知性が無いですから従い刺身というのは実に醜いものですその点刺身で言うならわたしはピンク色のトイレットペーパーを桃の天然水に浸して食べるのがこの上なく好きなのですここまでいけば知性がなさすぎて美しいから」
気が付けばなんだか会場内に響く音は、ファの勢力が強くなってきていた
そしてそのうち会場はファの声のみになりピアノもつられてファの音のみになった ファの声の音程もファになったし、ピアノのファの音もよりファって感じがしていた
ファの音にファの音程でファと言う
誰も間違っていない正しさ(ファ)だけで満たされた空間を完成させるには、みんな頭がおかしくなる必要があったのだ
みんなもわたしも頭がおかしくなって演奏会は終わった。
舞台上には大皿に乗ったてっさがスポットライトを浴びながら、包丁で傷つけられたグランドピアノの幾何学模様の屋根の上、チラチラと乱反射の光を放っていた。
わたしはそれを美しいと初めて思った。
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