見出し画像

縁の下の

夏らしい短い話
________
小学校三年生のころ、一人で祖父母の家へ遊びに行ったことがある。私の家から自転車で十数分の祖父母の家は、一戸建ての平屋で、サザエさんの家にそっくりだった。

その日は何故だったか祖母が一時出かけてしまい、まだ祖父は勤めていたので、私は一人で留守番をしていた。庭に面した縁側に寝転んで怪獣の玩具を戦わせていると、縁の下から「にゃあ」という鳴き声がした。

祖父母の家の庭にはよく野良猫が遊びにきていた。祖母と一緒に煮干しをあげたこともあったので、私は喜んで縁側から顔を出した。
すると白黒のハチワレ猫が、こちらを見上げて「にゃあ」と鳴きながら縁の下から出てきた。

撫でようとして私が手を伸ばしたのと同時に、縁の下からスッと白い手が伸び出て猫の後ろ足を掴み、そのまま猫を引きずり込んだ。猫はギャアッと鋭い鳴き声を上げて縁の下に消えた。私は鳴き声に驚いて手を引っ込めたまま一瞬呆気にとられたが、たちまち恐ろしくなって叫びながら祖父母の寝室の押し入れに逃げ込んだ。床下からあの手が出てくるのではないかと思い、怖かった。押入れの上段で泣いているうちに眠ってしまったらしく、探しにきた祖母に起こされた。

押入れの中で、今で言う軽い熱中症になったらしく、横になって体を休めながら、帰ってきた祖父と祖母に見たことを説明したが、夢でも見たのだと言われた。
そんなに言うならと、祖父が懐中電灯で縁の下を覗いて見ると言ったが、祖父まで連れて行かれそうで泣いて嫌がった。

帰るには遅かったので、そのまま祖父母の家に泊まった。食事も風呂も寝る時も祖父母に密着して離れなかった。

翌朝になると、恐怖もすこし和らいだ。昨日の出来事は、縁側で微睡んで見た夢のようにも思われた。こわごわと、祖父に掴まりながら縁側まで出てみた。縁の先の地面には、猫が最期につけたであろう引っ掻いたような短い足跡があり、私はまた泣いた。

それからも祖父母の家には通ったが、縁側や庭には殆ど近づかなかった。あれ以来、日本家屋や猫、ベッドの下のスペースなども苦手になり、今でも掘りごたつには人が入ってからでないと入れない。
________

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?