サイダーの方が美味しい。

親からの連絡ほど鬱陶しいものはない
それは内容が大体わかっているからだろうと思う
メールをしてくるのはたいてい母からで
調子はどうだと体調を心配したり、庭で野菜が採れたと言って
添付している画像は野菜とは全く関係ない父のダブルピースだったり
最近のトピックはもっぱらマスクの有無と夏バテしていないかと
どうにも親というものは我が子を心配してやまないらしい
少なくとも私の親はそうだった

こっちは元気でやってるよ、今年の畑は豊作だね
そっちも楽しそうで何よりだよ
ちゃんと返信していたのは最初のうちだけで、頻度は徐々に少なくなった
今となっては必要最低限の連絡しかしていない


実家の近所に住む友人の弟がもう大学生らしい
2番目の弟くんもそんな歳になったのかと私が言うと
違う違う、一番下の弟の方だよと笑われた
中学校に上がったと聞いた時の衝撃は、まだ新鮮な驚きだったのに
だらだらと過ごしている間に、あの無邪気な少年はあっという間に青年へと姿を変えていた
お酒を許される年齢になるのも、もうすぐのことで
成人式の帰りにお酒を飲んで帰ってきたと聞かされては驚きを繰り返すのだろう
ビールはどこ銘柄がいいだとか、ワインは赤に限るだとか
ウイスキーは樽の香りがどうとか、生意気に語り出すのも時間の問題だ

20歳の誕生日、私は初めてお酒を飲んだ
記念すべき1杯目に母がいつも飲んでた缶チューハイを手に取ったのは
たんにお酒に興味がなかったからか
いつも母が美味しそうに飲んでいた姿が浮かんだせいか
舌に感じる独特の苦味と喉を通るアルコールの熱さ感じながら
見慣れたはずの天井はぐるぐると回っていた
顔を赤くして自分はお酒が弱いんだと私が呟けば
飲み続ければ強くなると顔を赤くした母が笑っていた
そのうち酒のうまさが分かるようになるさと半分残った缶チューハイを
飲みながら言う横顔は、親というよりも人生の先輩のように見えた

成人式を迎えたとき
想像していた大人のイメージと、かけ離れた自分の現状に絶望したことを
いまだに覚えてるし、なんだったらいまだに絶望し続けている
早起きして、満員電車に揺られて、頼りになる上司や同僚と汗水垂らして、
一大プロジェクトをやり遂げて、仲間と飲むのビールが一番美味しい
小さい頃に想像してた大人の姿と今の自分が随分とかけ離れている
電車が満員になるほど人のいない土地で、上司の指示にモヤモヤしながら、
夢も野望もなくなった、仕事への熱意もたちまち小さくなってしまった
お酒は相変わらず美味しくない
選挙に行くのは、お酒を飲むのは、タバコを吸うのは、社会に出るのは
大人の証ではなかった
大人になるってどういうことなんだろう

母から送られてくるメールはおよそ大人に宛てた文章ではない
大人になっても親からすればいつまでも子供なのだろう
親を大事にする姿に大人を感じていたけど、あれは子供が親に甘えている姿なのかもしれない
今年のお盆はコロナの影響で帰れそうにないけど、落ち着いたらちゃんと帰るよ
その時は一緒にビールでも飲もう
大人になった子供のできるサービスだから

ただ同じ炭酸飲料ならビールよりも

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