賢治の映像作品での描かれ方。
宮沢賢治の生涯は過去何度か映画化・映像化されています。そして名だたる俳優さんが賢治を演じています。
「宮沢賢治その愛」では三上博史さん。(ちなみに野口英世も演じたことがある)「我が心の銀河鉄道」では緒方直人さん。アニメ作品「kenjiの春」では声優として佐野史郎さん(ちなみに賢治好きとしても有名)「賢治の食卓」では鈴木亮平さん。最近では「銀河鉄道の父」で菅田将暉さんが宮沢賢治を演じました。
それぞれの映画のなかで軸をどこにおいているかで賢治の生涯の描かれ方が違うので、1個ずつ語りたいところではありますが、今回はざっくりと各映画共通して賢治がどういう人物に描かれているかをお話ししたいと思います。
一言で言うと「めんどくさい人」
これは私の独断と偏見ですが、どの作品でも、木訥とした少年のような心をもつ繊細で自由な賢治像が描かれています。落ち込むことはあるけれど信念は曲げない。どこまでも自分のやりたいことを貫き通す。
ただ、かなりめんどくさい人。
その例をいくつかあげてみたいと思います。
入院先の看護師に一目惚れして結婚すると言い出す。
「宮沢賢治その愛」より
18歳の賢治は入院先でお世話をしてくれた看護師さんに恋をし、両親に対して結婚をしたいと申し出ます。ただこれは賢治が勝手に言っていたことで、女性にはプロポーズはおろかお付き合いさえしておりません。ただ脈を測ってくれた看護師に恋をして一人で突っ走っているだけです。女性からしたら自分のいないところでそんな話をされて「え、恐っ」て言う状況です。
この時期の賢治は中学を卒業式して、もっと勉強がしたいと考えていたところに父親の政次郎さんから家業を継げと言われ「やってられるかっ!」と反発していた時期でした。恋をしたのは事実でしょうが、半ば反抗期的な気持ちもあったのかなと思ったりもするのです。
父に改宗しろと迫る。
宮沢家は浄土真宗を信仰していて、賢治は幼い頃から父の教えのもと熱心に勉強会にも参加していました。その体験もあり、賢治と宗教の繋がりは非常に強いものになるのですが、ある時日蓮宗に傾倒した賢治は父親に改宗を懇願します。これはどの作品でも描かれる場面なので、それほど賢治の人生の中で大きな出来事だったということです。
それまでに何度も対立してきたのにも関わらず、自分のしていることは間違っていないと言わんばかりの姿勢は感服です。絶対否定されるに決まってるじゃんって私なら思ってしまうんですが、そこが賢治の強いところだと感じるのです。自分専用の祭壇を作ったり、大きな声でお題目を唱えながら街中を歩いたり、政次郎さんからしたら「また息子が変なこと言い出して変なことやってる」ぐらいのめんどくささです。付き合ってあげた妹のトシのなんとけなげなこと。
女性からの好意の断り方。
生涯独身だった賢治も、何度か恋をし、慕われたりもしています。何人か女性の名前が挙がる中で映画にも出てくるのが高瀬露さんです。彼女は「宮沢賢治 その愛」「我が心の銀河鉄道」に登場し、それぞれ牧瀬里穂さんと斉藤由貴さんが演じています。両者の露さんもはつらつとして積極的な女性に描かれていました。
賢治の作品に感銘を受け、羅須地人協会で活動していた賢治を訪ねてくるのですが、あまりにもぐいぐい来るものだから賢治は困惑。もともと女性の扱いも不得手ですから、好意に気づいてはいてもどうすることもできなかったのです。露が来訪すると慌てふためき押し入れに隠れてみたり、顔に灰を塗りたくって顔色の悪い病人に見せかけたり、どうにかして露を遠ざけようとします。賢治自身も露に好意を持っていたのですが、一方でその「恋」というものが自分の活動の妨げになる、体の弱い自分の命はいつつきるかわからないからこそ、一人の女性に時間を注いでいる場合ではないという思いがありました。そんな自分の思いを露に「察してほしい」と子供じみた行動をとっていました。
めんどくさい人というより自分勝手というか不器用というか。好きなことや自分の信念にまっすぐなだけに、周囲からの反発もあり挫折も苦悩も山ほどあった賢治ですが、それでも農民のため理想の世界を作りあげようとし、自然から受け取った言葉や音楽を残し、自分の身を犠牲にして「ほんとうのさいわい」を実現しようとしました。
そういう点で「聖人」にも見られがちですが、めんどくさい性格だったり、自分の理想を押しつけようとしたり、親にいつまでも甘えようとしたり、童話や詩の中だけではわからない、人間としてのもぞもぞしたところが魅力の一つだと思います。
自分がめんどくさい人間だからどこか共感を覚えるのかもしれませんが。
みなさんが賢治の人間らしさに惹かれるところはどこでしょうか。
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