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ITコンテンツ業界の労務(5)フレックス制その4

あめにきのオフィスのnoteでは、スタッフが仕事をしてきたうえで気がついたことを、書いていきます。
毎週月曜日に更新する予定です。

前回のつづきです。

前回挙げたほかにも、フレックス制を導入する上で注意したい問題点があります。

その問題の一つとして、フレックス制の対象となる従業員の労働時間が、他の者にわからない、ということがあります。
従業員は自分の裁量で勤務時間を決めます。それは従業員の権利ですから、他の者からの干渉を受けることを嫌います。そうなると、勤務時間についてのコミュニケーションが取れにくいことになります。

こうなると、顧客や親会社との対応に困ることになります。お客さんから問い合わせが来たが、居合わせた者にとっては、担当者が今いないことだけしかわからず、「今日は彼は14時出社だったから、明日も14時ごろに来ると思います」程度の返答しかできないことになります。
これでは顧客も困ることになりますが、顧客だけでなく上司も困ります。いかにも自分のコントロールが取れていないように見えますから。部下が時間にルーズであり、かつ上司がそれを掌握もコントロールもできていない、というように受け取られてしまいます。
上司にとっても、自分の部署が、朝に部下を来させることができない雰囲気だ、なんて思われたくないでしょう。

とくにIT系企業では、ほうっておくと従業員が夜型勤務になっていく傾向があります。夜遅い時間帯には上司が帰宅していることも多く、従業員の勤務時間帯の大半が、上司の目の届かない時間になっていることもあります。
私が見た範囲内の話ですが、20代の従業員は極端な夜型になることが少ないのですが、30代以後はたいてい、フレキシブルタイムの範囲内ギリギリで遅く勤務することになりがちです。(逆に女性は、若い人にも極端な夜型がいたりします)。

このほかにもさらに、従業員ごとに勤務時間が異なることが原因で、不都合な状況が生まれることがあります。
たとえば、特定の従業員がいないことで、仕事の話が進まないことがあります。物や情報の位置を掌握できている者が遅い時間の勤務であるときに、朝に「あの人がいないから○○の場所がわからない、だから昼過ぎに彼が来るまで、仕事は一旦ストップ」というような流れです。
従業員が同時に作業するメリットは大きいのですが、フレックスですとそのメリットがなくなるので、作業進行の効率が落ちることがよく起きます。

また、従業員同士の協力の姿勢が弱くなることも多いです。
フレックス制では、非常によく言われるデメリットですね。コミュニケーションが不足します。
勤務時間を自由に設定できると、どうしても、従業員は「一匹狼の職人肌」みたいな感覚が強くなります。独立意識が強くなって、周りを見渡す視野が狭くなります。
同じ空間で仕事をすることで生まれる意識、「自分たちは同じ上司のもとで働いている仲間」という感覚、それが欠けてくるのです。
IT業界はこのあたり、合理的に考える傾向が強いです。扱っているサービスの性質がそうさせるのかもしれません。

同一空間・同一時間を共有することによる連帯意識の価値を、低く見積もるようです。
ここで、経営者側が、そういう連帯意識の大切さを訴えることがありますが、それについて従業員側が強い警戒心と反発心を持つことがあります。

ここまで、フレックス制を導入することで起きがちなデメリットを、並べてきました。
これらのデメリットはフレックス制というしくみによって起きるものなので、完全に避けることはできません。また、これらのデメリットを避けようとすると、会社の都合によって、雇用契約や労使協定で定められた従業員の権利を侵害する方向に話を進めようとすることになり、不満やトラブルのもとになります。

まずは、フレックス制の目的をきちんと決めておくことが大切です。
そうでないと、デメリットに見合った効果が出ているかがどうかも不明になってしまい、結果的に、フレックス制を続けること自体が目的ということになってしまいます。
フレックス制の目的は、不規則な勤務時間や夜型生活、従業員ごとにバラバラな勤務、といったものを推奨することではなく(許容はしていますが薦めてはいません)、別のところにある、という方針を示すことです。
労使協定に「この目的が達成できない状況になればフレックス制は停止する」という規定を入れておいてもよいです。

次回、具体的な目標に続きます。

*個人事業主や法人成り会社あたりの規模の経営者の方は、労務・広告・法務・経理、さまざまなサポートについて迷うこともあると思います。
ぜひ、「あめにきのオフィス」にご相談ください。(このnoteを書く最大の目的は、もちろん広告です。)

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