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上下左右に揺れ動く日々

 2023年2月16日

 昨日は「YOIYOSE」,今日は「拡大版マイノリティ」というライブに出演させていただいた.

 午前中はひたすら期末レポートを書いていた.流れ作業で,振り返ることなく,文字を羅列していく.時間に余裕があるときは,作った文章を再度確認して,修正して納得がいったら提出しているのだが,現在は五つの講義の期末レポートを抱えているので,自分のポリシーなど知ったこっちゃない.なりふり構わず,文章を書いていく.

 ネタ合わせのために家を出る時間ぎりぎりまで書いて,時計を確認して,ヘヤァ!と叫び,勢いよくノートパソコンを閉じた.ぺきゃうと鳴った.「はて,ぺきゃう,ぺきゃう,こんな音初めて聞いたぞ」と思った.ゆっくーり,ノートパソコンを開いてみたが,問題はなさそうだった.本当によかった.

 なんでもかんでも勢いが強いので,僕の持ち物は傷だらけの物が多い.この前,中央線の電車内にて,荻窪を通過したあたりで,眼鏡のレンズが,ばぃいーんと飛んでいった.この話もいつかしようと思う.ちなみに筆圧もものすごく強く,テスト用紙をよく破いていた.

 家を出て,線路沿いを歩いていた.お昼頃とはいえやはり寒くて,大きく息を吸うと,鼻の奥がじんわり痛かった.ふとどこからか音が鳴った.リィーン,リィーン.「おや,鈴虫だ,鈴虫がいるぞ」と思い,周囲を探した.リィーン,リィーン.音が次第に近くなる.リィーン,リィーン.見つけた.線路沿いのフェンスに備え付けられていた何らかの機械がこじんまりと唸っていた.しかもよく聞くと,ブリィーン,ブリィーンだった.小さく最初にブが入っていた.

 よく考えたら,冬の,しかもお昼に,鈴虫などいるわけがない.それでも,最初のリィーンを聞いた時,鈴虫で頭がいっぱいになってしまった.なんだか遠い季節に会えるような気がしてすごく嬉しかったのだ.過ぎ去ってしまったものが記憶の中で美しくなって,それを無性に欲してしまう時がある.ないものねだりなのだけれど.冬にはあのうだるような熱帯夜を求めてしまうし,夏にはあの鼻奥のじんわりとした鋭い痛みを求めてしまう.そんなことを考える日々,それ自体も,いつか欲してしまう時期がくるのだろうか.そんな感傷的な思いに耽っていた.

 それで,ネタ合わせに遅刻した.こんな他者から見たら戯言のような理由を言えるわけもなくて,柿田さんからの追及にへへっとしか言えなかった.「YOIYOSE」の開演時間は22時だったので,20時までカラオケでネタ合わせをしていた.その後,丸亀製麵で少しお腹を満たしてから,会場の下北沢シアターミネルヴァへ向かった.夜の下北沢は,綺麗な色が多くて,じんわりと人の気配が漂っていた.新井さんはうどんと天丼を食べていたので,お腹が苦しそうだった.案の定,京王線の高架下付近で「食べ過ぎた」と呟いていた.

 その後,しばらくして出番だった.他の芸人さんのネタはみな面白かった.最後,楽屋のドアを開けて中に入ろうとしたとき,後ろに高田ぽる子さんがいらっしゃって,僕がドア開けたまま押さえていたら,「ご親切にどうもありがとうございます」と言ってくださった.こういう人になりたいと強く思った.


 今日はお昼過ぎからガストでネタ合わせだった.特段,不可思議なことは起こらず,ひたすらネタ合わせをしていたが,ここのガストのスープバーのスープは非常に美味しかった.卵スープだったが,柿田さんは自分のよそったスープの中を自慢げに見せて,「ほら大きな白身が入っとるよ」と言った.新井さんが「大きな卵白だね」と言った.これを白身と呼ぶべきか卵白と呼ぶべきか論争が始まった.その後,会場である池袋西口GEKIBAへ向かった.

 会場へ着き,出番まではネタ合わせをしていた.合間に一緒だったぬでさんとお話していた.ぬでさんも大学お笑いを経験されていて,僕も前までは大学お笑いをやっていたので,その話をしていた.僕はぬでさんのネタがすごく好きだ.

 そして,出番だった.ここに書くべきか迷ったが,書く.僕は台詞を飛ばした.しかもひどいことに飛ばしたことさえ気付いていなかった.出番終わり,茫然自失となった.

 悔しいとか怒りとかそういうものよりも,お客さんへの申し訳なさでいっぱいだった.せっかく見に来てくださったのに.完成されたものをみせることができないことが何よりも落ち込む.過去,飛ばしたことはあったが,自分が飛ばしたことに気づいていない経験は初めてだった.なおさらショックだった.どういう思いを抱いて,どこから反省すればいいのだろう.そういう帰り道だった.

 家に着いてからも部屋で考えて,これを笑い話にできるように頑張ろうと思った.普通の仕事であれば,負は負のままで,正で取り返すしかないが,お笑いは,負を正に変えることができる.だから,「僕がしなければならないことは,これをまた別の笑いで取り戻すことだ」と強く考えて奮い立った.

 その後,「その前にまずネタを飛ばさない努力をしないとな」と思い直した.また頑張ろうと思う.





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