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映画『チタン』における「チタン」とは

ごきげんよう。雨宮はなです。
前回は「生」についての投稿でした。
今回は第三回「チタン」についてです。

※この記事は映画『チタン』公式による「完全解析ページ」を閲覧せずに書いたものです。
※ここから先はネタバレを含みますので、ご了承いただける方のみ読み進めてください。
※残虐なシーンや性的な描写について扱っています。苦手な人はご遠慮ください。

主人公の「できあがり」

物語の序盤、主人公がなぜ頭にチタンプレートを埋め込まれたのかを語る映像が流れます。
理由はわからないけど親子仲の悪い父と娘。娘はどうにか父親の関心を自分に向かせようと、呼びかけてみたり座席を蹴飛ばしてみたりします。「やめろ!」と怒鳴られるのも彼女にとっては「かまってもらえた」にカウントされるのでしょう。調子に乗ってもっと「やめろ!」を引き出そうとし、キレた父親が後ろを向いたことで事故が起こります。

頭蓋骨にチタンプレートを埋め込む手術を行い、主人公ができあがります。そう、この手術によって主人公は「できあがった」のです。固定具で固定され、頭に侵入され、チタンプレートを頭蓋骨に埋め込まれて「できあがった」主人公。女医に「衝撃を与えるとズレてしまい、死に至る危険がある」と忠告を受けて一家は病院をでますが、そのタイミングで主人公がうっとりと車に近づき、恋人に接するような態度をとります。

試し行為をするほど父親から関心も愛情も向けられていないかわいそうな子供ではあれど、まさに「クソガキ」な少女にイライラしていた私ですが、この車への接し方に気持ち悪さを覚えました。少女らしい純粋さがなく、アダルトビデオを見ているような感覚になったのです。あまりにも性的な接触にみえました。今思えば、あれは処女喪失だったのかもしれません。それはそれで、とんでもないシーンだということになりますが。

車ではなく金属への執着では?

作品のあらすじや宣伝映像にも使われた「車への異常な執着」という表現は誤りに感じられました。監督がそう設定しているのでしょうが、車に執着するようなシーンは手術後にしか見られませんでした。車の上でのゴーゴーダンスも執着を表しているようには見えず、また、彼女が人気のダンサーだという理由もいまいちわかりませんでした。ダンスそのものは見ごたえがありましたが、設定との紐づきには弱かったように思います。

良い寄ってきたレズビアンの同僚が乳首にピアスをしていることを知ると、途端に彼女に興味をもつ主人公。シャワー室で、海辺で、執拗にピアスへの愛撫を繰り返します。シャワー室では引っ張りすぎて「痛い!いいかげんにしてよ!」と怒らせてしまうほど、肉体ではなくピアスに興奮している主人公。
彼女の家に入ってからはホラー映画もびっくりの惨殺タイムが始まりますが、手に取る手段が金属のものばかりだったように記憶しています。(聖剣ヒカキボルグって、今でも伝わるネタなのかな…。)

主人公があちこちにピアスを付けていたり簪が金属製だったりすることからも、執着は「金属」にある気がします。頭に埋め込まれているため執着どころの話ではなく、「離れられない」に近いのかもしれません。

主人公の持つ”簪”

この映画において主人公のもつ簪はくノ一よろしく殺人の手段です。仕事の帰りにストーカーを殺し、同僚を殺し、「自分のなかにあるもの」を殺そうともしました。ひとつ前の記事で書きましたが、彼女にとって「殺し」は「生きる」ための手段だったと考えられます。

生活の道具であり、装飾具であり、殺人の手段…簪に込められたメッセージは「女であること」のような気がしてなりませんでした。主人公もまたゴーゴーダンサーとして性を生業に生きています。そうやって生きている人たちに共通する価値観のように感じられました。

チタンはどんな金属?

そもそもチタンってどんな金属なのだろうと思い、軽く調べると次のような特徴がありました。

①強度が高い
②耐食性が強い
③軽い金属である
④安全性が高い
⑤値段が高い
⑥加工が難しい

Mituri

①~④がメリット、⑤と⑥がデメリットとして紹介されていました。
調べているうち、私はこれをそのまま「性/価値観」として考えられるのではないかと思い当たりました。

チタン≒性/価値観

①強く、壊れにくい
②浸食され難くい
③負担になりにくい(違和感に気づきにくい)
④他の部分に影響を与えにくい
⑤高等な教育や経済的に余裕のある人間にありがち
⑥変容しがたく固定されがちである

ちょっとこじつけすぎな気もしますが。
主人公の術痕のデザインがアンモナイトに見えるのは、「太古の昔から」という意味にも思えました。
古臭い性/価値観を大人によってうめこまれて「できあがった」主人公。それによって傷つき、傷つけ、向き合い、自分なりに決着をつける。『チタン』は主人公の自立と自律の物語なのかもしれません。

さいごに

もし、チタンが性や価値観を意図して使われたのであれば、主人公から「でてきたもの」にチタンがあったように見えたのは性や価値観が「受け継がれる」ものだからかもしれません。
親とのつながりであり、呪いにもなりかねないものを表すのに非常に効果的な金属であると考えられます。

次回はこの作品において「家族」についてあれこれ考えたことを投稿します。

最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた次の記事で。ごきげんよう。

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