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『タイタニック』のラストで私が感動できない理由

ごきげんよう。雨宮はなです。
先日、金曜ロードショーで二週に渡り映画『タイタニック』が放映されました。既に鑑賞済みではありましたが、その際は字幕での鑑賞だったので吹替音声を楽しむべく私もテレビ前にスタンバイしておりました。やはり、石田彰さんの声は美少年にピッタリ!観て良かったです!!​

映画として素晴らしいものだと思いますが、どうしても好きになれない要素が3つあります。
1つめは階級制度の描写。これはもう史実的にも仕方がないというか、ここがきちんと腹立たしいレベルでできていないと現実味に欠けてしまいます。2つめはヒロインの性格。育った環境や年齢を考えると仕方のないことではありますが、好きになれるかどうかは個人の感性なので。そして、3つめがラストシーンです。

ラストシーンを振り返る

ローズ(老女)が”ハート・オブ・オーシャン”を海に捨て、「暖かいベッドの中で眠りにつく」と、彼女の過去の写真を眺めるようにカメラが移動し海の中へと視点が移ります。
慣れた足取りで進んでいくにつれ、かつての姿を取り戻していくタイタニック号。たどり着いた先では沈没時に亡くなった全員があたたかい笑顔で迎えてくれ、階段の先にはジャックが待っていました。
差し出された手をとろうと手を伸ばすと、ローズも当時の外見に戻っており、花嫁を思わせるレースで飾られた白のドレス姿で抱き合い、キスをして、その場の全員に拍手で祝福されて終わります。

モヤモヤしたので解説サイトなどをめぐり納得できた部分もあるのですが、どうしてもひっかかる部分が私にとって感動できない理由だということがわり、ものすごく短く述べたものを放映直後にTwitterで発言しました(別のツイートを削除した際に事故で消えたので再ツイートした経緯あり)。

これだけ読むと「ジャックとの約束を果たしただけでは?」という返答がありそうですが、約束の証明なら他に方法があったというのが私の考えです。

この映画作品においてローズが恋愛パートにおけるヒロインであることはもちろんですが、物語パートの主人公としてのヒロインでもあり、”ラストシーンは彼女の心理に基づいて描写されたと考えられる”という前提で話をすすめます。

ジャックとの約束

まず、ジャックとローズの最後の会話においてジャックから次の様なお願いをされ、ローズは必ず守ると約束をします。

「自分の人生を諦めてしまわないで、自由に生きろ。生き延びて、結婚してたくさん子供を産むんだ。それに死ぬときは、冷たい海の中ではなく暖かいベッドの中じゃないといけない。諦めないで」

この約束をベースに考えればローズは「自分の人生を諦めずに、自由に生きた(様々なことにチャレンジした証拠の写真より)」し、「結婚してたくさん(?)子供を産んだ」し、「暖かいベッドの中で死んだ」のでオールクリアだと言えるでしょう。

オールクリアした!やったわ、ジャック!あなたとの約束を守ったわ!!
これでいつまでも二人、一緒よ!!(リーンゴーン)(拍手)

私がラストシーンを好きになれない理由は、コレなんです。
だって、夫が浮かばれないじゃないですか。子供だって自分の存在を疑問に感じ得ないじゃないですか。自分達と出会う前に戻ったということは、自分達が無かったことにされているも同然なのですから。
とにかくジャックとの約束を守るために生きた。約束を果たすために結婚し、子を設けた。私にとってローズがとった行動は、他人を道具にしたと同義に感じられるのです。

ローズは結局、自分が嫌っていた貴族の考え方から抜け出せていないとも考えられます。他人を”自分の理想を叶える道具”として扱っているのは貴族階級としてはごく自然な価値観・考え方ですが、ローズはそれに嫌悪感を抱いていたはず。なのに、「(母である私が今までと同じ暮らしの質を保ちながら)生きるために、結婚しろ」といった母親や「(自分に都合の良い結婚相手として)自分を敬い、愛せ」と言ったキャルと同じだなんて実に皮肉なことです。

そうまでしてジャックとの約束を守った結末って、そんなに美しく感動できるものなのかしら。

魂の再会か、最期の夢か

ラストシーンはDVDのチャプターにおいて「A Promise Kept(約束は果たされた)」と名付けられているそうです。約束が果たされた先にあるのが、沈没前のタイタニック号と自分を祝福してくれる人々と最愛の人。これらが当時のローズが求めていたものであることを考えると、この光景はローズが最期に見た夢なのかもしれません。
”黄泉の国で最愛の人に再会し結ばれた”よりも”思い出に浸りジャックと結ばれたかったことを思い出した”のほうがローズの自分本位なことが際立ち、夫や子供たちがまだ救われる気がします。

私があのシーンで唯一好きに思える要素は「誰も口をきかない」ところ。死人に口なしだからか、誰もローズに声をかけないし、ローズも口をききません。おめでとう、よかったね等の祝辞もありません。黙って笑顔で拍手だけ送ります。欲をいえば、拍手も音がしない方が良かったと思います。
もしくは、ローズ(老女)の記憶が古すぎて声を思い出せないという解釈もできます。自分が声を出したら老女の姿に戻ってしまうのでは、と考えたのかもしれません。

”黄泉の国で最愛の人に再会し結ばれた”説が濃厚ですが、そうなると「これぞ本当のコープス・ブライド」と思ったりなんかしちゃったりして。

私の思う最高のラストシーン

では、どんなラストシーンだったら私は感動できたのでしょうか。答えは簡単です。ローズが老女の姿のままで、キスシーンがなければ良かったのです。それだけでジャックに言われたことを遂行する人生ではなく自分の意志で自由に生きた人生だと見えるし、あの時のお礼と死後の世界でのあいさつをしたのだと受け取れます。

それに若かりし頃の外見に戻るのは夫や子供を無かったことにするだけでなく、キャルや母親に提示されたように「若さとそれに付随する美しさ」にしか自分の価値を見いだせていないようで悲しくも感じられます。積み重ねた経験や感情によって刻まれた皺や表情だって「美しさ」なのに。
ジャックが自分の外見にしか興味がないって疑っているようで、それも悲しいポイントのひとつ。その人の人間の部分、ましてや魂を愛していたのであれば外見を買える必要がないし、人の形で再会する必要もないのですが。その場合は、お互いを色に喩えた台詞があると色で表現ができたのかもしれません。

キリスト教の教えだと”死がふたりを分かつまで”が結婚生活ですから、夫が死んでしまえば自由、自分が死んでしまえばあとは自由という考えなのかもしれません。それはそれで悲しいし、「現世は目標達成のためだけ」という感じがしてやっぱりローズの選んだラストシーンで感動はできません。

参考にしたコラム

他にもいくつかまわりました。

おわりに

記事をまとめつつ、かつて母親に言われた台詞を思い出しました。
「あんたみたいなものの見方をしてると、いつまでたっても結婚できない。大人しく感動しときなさい。」
あながち間違いじゃない気がします。作り手さんの思惑通り「美しい!」「感動した!」といえる人の方が上手く組織に馴染んだり、結婚したりする人に多いのかもしれません。とはいえ、彼女の台詞は毒親以外のなにものでもありませんが。

そういう人たちを否定するわけではないのでほっといてほしいなーと思いつつ、否定でなく意見の違いを楽しめる人のお話は積極的にききたいとも思います。自分の知らなかった情報を得てから観たら、感動できちゃうかもしれませんから。

最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた次の記事で。ごきげんよう。

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