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スピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』に物申す。

ごきげんよう。雨宮はなです。
これはFilmarksのレビュー欄に書いたものに追記した文章です。最初にはっきり書いておきますが、私はこの作品について良い評価をしておりません。この作品が好きで、良くない書き方をされているのは耐えられない!という方はページバックして、他の記事を読んで楽しんでください。

そもそも不安しかなかった

ほとんど当たっていると言える私の持つ偏見のひとつに、大々的にPR活動をしている、予告編に力をいれていて、そのうち女性の衣装が魅力的に映るようなカットをメインにもってきた作品は当てにならない。」というものがあります。例を挙げるなら『ラ・ラ・ランド』『実写版 シンデレラ』『実写版 CATS』『イントゥ・ザ・ウッズ』あたりでしょうか(ファンの方には申し訳ないですが)。ちなみにミュージカルでないなら『アイ・フィール・プリティ』もこの列に加えます。

今回の『ウエスト・サイド・ストーリー』は予告編の作りからPRの仕方から、なんとなく上記に並べてよさそうな印象を受けていて不安が強かったのです。特に『ラ・ラ・ランド』の時のような感じだと思っていました。

それに加えて、監督がスティーヴン・スピルバーグ。冒険やドラマを描くのに長けた印象はありますが、恋愛…というか人の色気を描くのは不得意な印象でした。それに、彼はミュージカル映画を作ったことがない。これで不安にならないのは、ミュージカル好きでない人だけです。

これはひどい

実際に鑑賞して思ったのは「これはひどい」のひとことでした。ミュージカルとミュージカル映画を馬鹿にしている、まごうことなき駄作。出来栄えの悪さは2019年の実写版『CATS』と同列といえます。ミュージカルを観ない人間のオナニー作品といっても過言ではありませんでした。監督が好きな作品で作りたがっていたという話を聞きましたが、「嘘だろ、悪意しか感じねぇよ」というのが素直な感想です。

ミュージカルの魅力を徹底的に失くした作品で、これをミュージカルを観るきっかけにする人たちにミュージカルを誤認させる恐れがあります。この作品を観て「ミュージカルって苦手」「好きじゃないかも」と思わせて、他の作品からも遠ざけてしまうのではないかと不安でしかたありません。

反対に、これを観て「ミュージカルって素晴らしい!」と思われても、他のまともなミュージカル映画やミュージカル作品に対する侮辱と言えます。これは、決して、ミュージカル映画ではないのだと、ぜひ認識してほしいのです。

いちばんの大罪

TwitterやFilmarksにある感想で非常に多かったのは以下の通りです。

①音楽が素晴らしい
②ダンスが素晴らしい
③衣装が素晴らしい
④映像が素晴らしい

①音楽が素晴らしいのはバーンスタインのおかげなので、この作品の功績ではありません。歌唱に限ったことでいえば、トニーは”歌の上手い俳優”程度でしたし、マリアは歌唱力は高くても映像とズレる箇所がいくつもあり映像演技としては微妙なところ。主演ふたりがそんな状態だったので、それですでにミュージカル映画としては非常に弱くなってしまったわけです。

②「ダンスシーンが見事」という感想がかなり多く見受けられましたが、ダンスシーンこそ問題でした(というかミュージカルシーンすべてがほぼ問題)。
カットが多すぎてぶつ切りなせいで表情や身体の動かし方の細やかな部分が全く観られないようにつくられてしまっている。構図もひどく、バストアップ以上ばかりのショットでミュージカルにする意味が全くない。この構図と編集なら、ミュージカルシーンを抜いたドラマ作品にして「ミュージカルが苦手な人のために作ったウエスト・サイド物語です」としたほうがなんぼもマシな出来栄えだったはずです。
振り付けは悪くないはずなのです、特にプエルトリコ勢のシーンは。「アメリカ」やマンボのシーンはあんなのじゃないはず。ミュージカルでブツブツカットするな!ブンブンカメラを振り回すな!!ミュージカルを何も見えないように作っておいて、何をみせようっていうんだ。

③衣装についても、仕事が雑としか言いようがありません。とにかく「映え」重視で、おまえはインスタ女子かと突っ込みたくなりました。それも、全員じゃない、中途半端。同じくらいの時代の参考に『ヘアスプレー』を観て勉強しろと。時代背景くらい汲んでおけと。マリアの白ドレスとアニータのドレスにだけ楽しんだ様子が見て取れます。『ラ・ラ・ランド』のときにも思いましたが、スカートをバサバサさせればミュージカルになるわけじゃありません。
赤と青の使い方も正直、微妙だなと思いました。なぜなら、マリアはトニーについていきたいだけで白人たちの仲間入りをしたわけではないから。青ドレスというのは安直というよりも、雑、と思いました。

④映像が素晴らしいというのは、予告編で切り抜かれたようなシーンに対する評価だとは思っているものの腑に落ちない点です。②に書いた通り、あれはドラマの構図と編集なんです。ツイッター素材画像やパンフレットに使う素材を集めやすくはあるでしょう。もしくは、いいところいってミュージックビデオの尺では許されるレベルでしょう。

メインヴィジュアルに表れている

メインヴィジュアルにすでにミュージカル作品としての出来栄えが表れていると言えます。左が2022年:スピルバーグ版、右は1961年:ロバート・ワイズ版で同じ演目を映画化したものです。

↑恋愛ものではあるのだが、ミュージカ ル作品であることはわからない。

スピルバーグ版はドラマの表現というのがわかってもらえるのではないでしょうか。

唯一の救い:アニータ

ヒロインであるマリアをおさえ、ネット上での評判高く支持されているキャラクター。それが、アニータです。
姉のような、母のような強さを持っているものの彼女もただひとりの女性。一所懸命前向きに生きようとし気丈にふるまい続けるものの、愛する人を亡くしたときには感情を爆発させ、それでもマリアの自分勝手を赦します。

キャラクターとしても素晴らしく、また彼女を演じている女優さんがイメージぴったりなのもあってこの作品の唯一の救いと言って過言ではないでしょう。ダンスシーンの盛り上げもほとんど彼女任せに見えました。もっときちんとダンスシーンを観たかったです。

さいごに

スティーヴン・スピルバーグ監督には、中村勘三郎さんの言葉を贈りたいです。

型がある人間が型を破ると「型破り」、
型がない人間が型を破ったら「形無し」

まさしくこれは「形無し」の作品であって、ミュージカル映画でこの演目を観たいひとは今作ではなく、『ウエスト・サイド物語』を観るべきでしょう。これなら『ラ・ラ・ランド』の方がなんぼもミュージカル風だし、中身空っぽでも『グレイテスト・ショーマン』のほうが良質です。

ミュージカル好き、ミュージカル映画好きとしてこの作品は本当に「ありえない!」のひとことでした。良質なちゃんとした作品は他にたくさんあるので、そちらをぜひ鑑賞してほしいなと心から思っております。

最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた次の記事で。ごきげんよう。

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