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【試写レポ】『あなたの顔の前に』オンライン試写会【35_2022】

ごきげんよう。雨宮はなです。
驚くほど役者さんと脚本への信頼がおかれたドラマ作品をオンライン試写会で鑑賞しました。

この作品はすでに劇場公開済みですので、ネタバレに寛容な形で書きます。

作品について

試写会ごとに運用は異なりますが、オンライン試写会は「期間中、好きなタイミングで何度でも観られる」という設定が多くあるように感じています。今回のオンライン試写会はまさしくそのタイプで、私は2度鑑賞しました。普段は一度だけである程度満足しツイートなどの投稿を行いますが、この作品はなぜか「もう一度観たい」と思える不思議な引力がありました。

シンプル・イズ・ザ・ベスト

舞台、衣装、ヘアメイク…見た目にもそうですが、この作品は本当にシンプル。カット割りも全然多くなく、まるで舞台演劇を観ているようです。長回しというのでしょうか。固定されたアングルの中で、たいてい一対一の対話がなされます。誰かの記憶を覗き見しているような感覚になり、映画であることを忘れてしまいそうです。それなのに野暮ったくはなく、ホームビデオではなく映画なのだという主張が感じられます。

よそよそしい立ち話、崩した姿勢にカメラではなく「相手」を意識した表情の作り方。とても現実味があるのに全て虚構だなんて、本当に不思議です。そぎ落とされた必要なものだけで構成された芝居。セリフにも映像にも過度な演出が無く、シンプルそのものでした。

スピリチュアルではなく、キリスト教の感覚?

タイトルになってる『あなたの顔の前に』ですが、主人公の「顔の前に天国が隠れていると信じている」というセリフから来ています。あまり日常に宗教を強く意識しない日本人にはスピリチュアルに感じられるかもしれません。ですが、他のシーンにおけるセリフなどもあわせて考えると、主人公はキリスト教を信仰していると捉えるのが正解に思えました。

「韓国 キリスト教」でグーグル検索をかけ、Wikipediaを読むと韓国は”東アジアおよび東南アジアにおける第3のキリスト教国である”とあります。教徒でないかぎり日本人にはなおさら馴染みがなく、作品の本質に触れづらいかもしれません。聖書にあるエピソードをそのまま物語として捉えるのではなく、生活の中に感じられてこそくみ取れるエッセンスが多くちりばめられていそうです。
男女が容易に触れ合ったり、境界線を越えようとしない清廉さも信仰からくる秩序によるものなのかもしれません。

主人公は”女優”だ

拍子抜けするような、衝撃的なようなラストシーン。夜は酔っぱらいながら「旅行をして短編映画をつくろう」と主人公を誘い、朝になれば留守電のメッセージで簡単に「やっぱり無かったことに…」という監督。不倫旅行になりかねないと怖気づいたのか、それとも「こいつはもう俺におちた」と興味を失ったのか。

留守電メッセージをきいて、主人公は大声で笑います。最初にこの映画を観たときは「あぁ、男ってバカだなぁ。映画撮るんじゃなかったのか」「期待した私もバカだなぁ」と主人公が自嘲したのだと思いました。ですが、二回目を鑑賞した時に別の考えが浮かびました。あれは、「してやったり」の笑いだったのではないかと。

つまり彼女は、ずっと女優として監督と接していたのです。ジェンダー配慮なのかはわかりませんが、字幕では「俳優」と表現されていますが、もしこの考えが間違っていないとすれば彼女は「俳優」ではなく「女優」なのです。”女”として”優”れた状態で接していた、それがまんまと成功した。あの留守電は”優”れた”女”にあてられてしまった監督からの降参…離脱宣言だったのではないでしょうか。

さいごに

そう考えてから、私はこの主人公のことが全くわからなくなりました。彼女は本当のことを言っているのだろうか。妹にした「貯金は無いわ。リカーストアをしていたの」という説明もひょっとしたら嘘なのかもしれない。ずっと「女優」として誰かと接し続けているのかもしれない。

さすがに穿って観すぎ、そのまま受け取ればよいと思いますが「人生の主人公は自分だ」だの「人は常に演じている」だのという言葉があるため、そのように考えてしまいました。

シンプルながらに奥深く引力のある『あなたの顔の前に』は、全国で上映中!

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