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#3 新鮮でいるには捨てましょう【黒澤世莉ワークショップ録】

さて、5日目。ようやく平日最終日です。ねえ?疲れてる?疲れてるよね?
そう聞きたかったけど、そんな様子に見えなかったのでここだけ時空が止まっているのか、噴霧器にアドレナリンが含まれているのか・・・・私自身、疲労が出てきてメモが雑になってきました。


本日も稽古場に入ったら、質問コーナーから始まっておりました。

■質問コーナー


  「『トリガー』の例ってどんなものがある?」

世莉「トリガーとは自分のリアクションを誘発するものであり、舞台上にトリガーが多い方が楽が出来る。例として、相手のセリフ、衣装、照明、音響、匂い、相手役との思い出(を連想させる舞台上の風景)等々。トリガーとして使えるものは何でもよい。」

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  「人には人柄や人(にん)があると思うのだけど、与えられた役柄から自分が遠い人間だった時は?」

世莉「距離が遠い事を不可能と置き換えるのは賛成しない。距離が近いことが相性がいいとは思わない。ニンに合っていない、合っているは、あまり関係がない。役柄との距離が近いからと言って魅力的にできるかどうかは別。一見(己の主観で)遠いように見える役でも実際は近かったり、遠くても二字曲線的に魅力へと駆け上ることがある。
自分が使いにくい感情って大事。やりづらい感情をやった方が面白いことがある。
やりやすい・やりにくいはあると思うけど、それが向いてる・向いてないとは違うと思う。自分でタイプやジャンルを決めつけないほうが豊か。
だから、要約:頑張れ。」

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  「自分自身に癖があってウェットになりやすい傾向がある。その癖から役に近づけるために頑張る方法とは・・・・」

世莉「問題がある時に、問題をなるべく細かく具体的に分解して考える。手つき?語尾が下がってしまう?首が振れる?声の高さ?
言葉遣いや癖とか部分的に細かい要素を変えてみる。気合でウェット感を振り払うのではなく、どの要素を変えることに取り組むのか?課題を明確にして取り組むと良い。」



■貢献するということ


世莉「場に貢献する、献身することが大事だと思う。例えば質問は自分のためであり、場のためでもある。みんなが等しく存在して、等しく貢献していくことには意味がある。稽古場を風通しが良い場にしたい。

だから、思ったことや感想があったら言っていいよ。
自分の成長・相手の成長のために役立てることがあったらやっていいよ。

リスペクトだけ忘れなければ、言いたいことは言っていい。自分の成長は相手の成長でもあるから。主体的にやった方が成長するから。受け身にならず、欲しいものに手を伸ばすと、いい事がある。」

良くなる為の具体的な頑張り方を聞くのはずるいかな?と思ってたけど、素直に聞いている人がいて私も助かった。あ、ここまで聞いちゃって良いんだと。
演技について口を出せるのは演出だけではない。みんなで作っていく場だから、演技についてシーンについてみんなが声を上げられる場になると居心地よく作っていける。
私個人の話にもなるけど、引っ込み思案なので私の意見は間違っているという呪縛があったりする。すると自分に自信が皆無になるので何も発言できない。どんどん自分の存在を消して行ってしまうことがある。間違う事を恐れずに、場を信じて、自分にも周りのためにもなることもあるんだと思う。



■感情表現における怖さ


世莉「感情表現が怖い人、手挙げて!(ほぼみんな挙げていた)
僕も最初は自分はリピテーションできてるって思っていた。でもある時、悲しいことがあって、本当に悲しい感情がたくさん出てきて、自分は今まで感情表現ができていなかったことに気づいた。頭で考えることが多かったんだってわかった。

リピテーションが憂鬱になることは悪くない。でも大きな感情を出すのは怖くない、大きくエネルギーを出すのは気持ちがいいこと。ずっと怖いわけじゃない。
自分と向き合うのに抵抗があるかもしれないけど、できてしまえばなんてことない。それを知って、やってもらいたい。

怖いっていう事と、それをやる事にどういう貪欲さが必要なのか。
きっと避けたくなると思う。でも勇気を持って取り組んで欲しい。
怖い事よりも大切なことがあるって事を知って欲しい。

怖いけど、できるようになりたい。

この「けど」の後に来るものが、本当に大切な事。これに気がつくことが第0歩。第1歩は目の前にある。主体的に獲得したもの以外は使えません。

やったらスッキリするし、俳優に必要なものだから。
ベースの部分がスムーズにできればできるほど、後が楽です。」


私も感情表現めっちゃ怖い。だって傷つくんだもん。開くことって、めちゃくちゃしんどい。「俳優として、自分の体に興味を持つ事から。」って言われても、正直あんまりピンと来ていない自分がいた。「やりたくない」だって本当だ。
そう思っていたけど、そうなったらそこでどん詰まりだ。それ以上は何も得られない。この感情を出した先には一体何があるんだろう。

「怖い」けど「できるようになりたい」
その【けど】があなたを強くする。

今やっているのは俳優に必要なことだから。俳優だからこそ、感情が自由に使えるのだから。自由に使えるようにならなきゃもったいない。



■本日のリピテーション


まずはリラクゼーション。

本日は、歩くリラックス。大きくゆっくり呼吸をしながら歩く。何人いても空間を共有する事を意識しながら。そして歩きながら、体を下から順に観察していきます。

意識している部分はどんな大きさ・形?
意識している部分から声を出したら?
意識している部分の硬さや重さは?
内蔵って冷たい感じがする?あったかい感じがする?
自分の息が肺が出たり入ったりする感じが感じられる?

やっている時は空間と意識を共有していくつもりで。空間を意識しながら身体を確認していく。この時、喉を固めず、息は吐き切るのをお勧めします。でないと、エネルギーが出ないから。

足→膝→もも→お腹(内臓)・・・と意識する部分をあげていく。

寝ているエクササイズは個人単位でやっている感じだったけど、歩くエクササイズは(稽古場が狭いのもあるけど)どうしても周りの人の動きや空間状態の把握が必要になる。寝ている時は人の声で影響をもらうことはあったけど、これは体全体で周りの影響をもらうことができる感じがした。


体が一通り意識できたら、エクササイズへ。
3種類の歩き方をしていきます。

・普段より早く歩く
・普段よりゆっくり歩く
・小学校の通学路を歩いているイメージで歩く

どんな景色?どんな匂い?どこに向かっている?

歩くスピードに合わせて想像が繋がったらその体で歩いてみる。
一緒にいる人、持っているもの、その時も感情も出てきたならやりましょう。

歩行速度を変えるとどんな感覚がする?遅くすると?
感じたことを、あー、わーと声に出してみたり。

スピードに合わせて役として歩いてみたらどうだろう。
センセーションに従順に行動してみたらどうだろう。
決めなくていいから、どんどん試して。違ったら大胆に変えて。
しっくりくるものがあったらそれで歩いてみる。

固有のアクション、動き、習慣、普段発見できない歩き方・景色を見つけられるような時間だった。


さて、そのままリピテーションへ。

世莉「あなたが行動しないと世界は変わりません。」

リラクゼーションからチャレンジは始まっている。
自分にあるものを表現するという挑戦。俳優って勇気の連続だな。

終わった後の感想は「できた」と自分で認識できる事がみんな多くなった感じがした。「できた」という感覚を自分で認識できることは大切らしい。この「できた」というイメージが自分の技術として身についていくのだそう。確かに、そこを認めていかないとずっと「できない」まま。少しのことでも「できた」ことを認めていった方が、自分の心にも体にもやさしくてヘルシーだ。

どんどんみんなが、やりたい事、やりたくない事に素直になっている。

自分のやりたい。相手のやりたい。

そのやりとりが、受動的:主導的=50:50になるようになる事が理想だそうです。

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  「モメントの定義ってなんですか?感じたことを発した事で1モメント?」
世莉「感じた事で1モメント。1モーメント1センセーションで。」

  「表現している中でまた別のものがきたら?」
世莉「それは、理論上起こらない。それは表現している事が違うのかも。」


英語が苦手な人(はい私です)へ補足。

1モメント=一瞬
1センセーション=1個の感覚・感情

#1で「2つの感情が同時に来る事がある」と質問があったけど、(私がしたんだけど)感じとる時間(モメント)がまだ長かったからそうなるんだろうと思う。
一瞬のうちに複数の感情がわかる事は確かに無いと思う。瞬時に拾えた感情は何か。でも相手がいるから相手の反応でそれがすぐ出せるかはわからない。それに相手の反応次第で自分の感情だって変わる。水流のような中で瞬間の衝動を伝え続けることの連続なのだろうな。


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  「イライラにも大きさがあるのかなとおもった。でっかく出した方がいいのかな。」
世莉「よくわからない時は大きく出してみる。そこから刻んでいく。最終的にアクションが超正確になることが目的。」
 



■新鮮さのはなし


世莉「稽古をいっぱいするとうまくいかなくなることがないですか

一同、みな頷くこと赤べこの如し。

世莉「なんでうまくいかなくなっちゃうでしょう?」

「前にやった事を捨ててないから?」
「なぞっちゃう。それに対してなぞらないでおこう。とも思っちゃう。」

世莉「今日は新鮮さの話をしようと思う。いっぱい稽古した方がいい。でも繰り返すことが弊害。うまくいった時をなぞりたくなっちゃう。

だから、いかに捨てるかが大事。新鮮さがキーになる。たくさんの事を試した末に固まってくるけど、それをいかに新鮮にするか。

それにはいかに体を作るか、いかに情報を選択するか。要はどう準備するのかに尽きる。単純に走るとかスクワットとかして体を温めるとか。体力に余裕にない方がいいことがある。余計な事を考えなくて済むし、誰でもできるから。舞台に入る瞬間には頭が外せるようにしておく。

そして、情報の整理。自分の役には知っていることと知らないことがある。そこを整理しておく必要がある。

新鮮にやるために分解する。俳優は具体的なことしかできません。
演出家の指示にも具体的に落とし込めるように。

シーンがうまく行った後に、うまくいかないことがある。
でも、そうならない工夫もあるはず。」


シーン稽古。みんなご存知22時開始。そしてこの日は1時間延長して24時までやっていた。金曜日だからね、明日は午前中寝れるからね。

特に印象に残った話。

世莉「舞台美術と仲良くした方がいい。」
空間を使う楽しさ・負荷を存分に活かすためにも舞台美術をよく知っておく。
距離感、位置、大きさ。先に舞台で役が歩きそうな場所、いそうな場所を先に確認しておくと良い。

キャラクターの話、土台の話、技術の話・・・人によっていろいろな話がされていました。俳優はいろんな視点からいろんな力が必要なのだと再確認する毎日です。



【5日目、おしまい】


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