第百四十一夜 『幸せの隠れ場所』
私は大衆店が好きだ。
少し汚いくらいの頑固者のおっさんがやっている居酒屋などたまらなく好ましい。
そういった雰囲気をコンセプトとする居酒屋というのは割合心地よく、気取らずに、背伸びせずにホッピーを嗜めるのが最高である。
その日、彼と私はどこにでもあるチェーン店で2時間という制限をかけホッピーを飲んだ。
白、黒、黒の順で。それぞれ中を2回頼む。
もちろん、仕事の話もすれば、会社のこれからの妄想話、家族の話など様々な会話と関西のおつまみを肴にホッピーを流し込む。
相変わらず彼のペースは早く、私は自分のペースを乱される。
17時前後だろうか、そろそろ解散という時間に差し掛かったところで、対応する店員が変わった。それまで給仕してくれたお兄さんも好感が持てる好青年であったのだが、次に対応にあたってくれた女性に私と彼は感動したのである。
もちろん、見た目が可愛いとかそういった話ではない。
「ホッピーの中おかわりで。」
「今、ホッピー⚪︎杯も飲んでいるので、この一月ドリンクが一定額になるチケット登録してもらった方が安くなると思いますよ。ちょっと待ってくださいね。」
そういって、厨房に戻る。
「はい。中2つです。あとやっぱり今のお会計が1000円は安くなりますので、よかったらこれ登録しませんか。系列店全店で1ヶ月使えるので、よかったらまた飲みにきてくださいね。」
私と彼は同じ印象を受けたようだ。
なんと心地の良い営業だろう。
無理のない、相手のニーズを叶え、潜在的な欲求を表そうかし、次回への期待感を持たせる。
かっこいい営業職というのは意外とどんなところでも育っているのかもしれない。
正直、チケットが荷物になるのでそういったものは申し込まない傾向が強いのであるが、ここはおとなしく彼女の営業を快く受け取ろうではないか。
会計を済ませ店を出る。ほろ酔いの私は彼に言う。
「これが営業ですね。」
実に良い気分である。
物語の続きはまた次の夜に… 良い夢を。
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