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第七十九夜 『北回帰線』



「あなた達が大学を合格したのであれば、この先どうか私には会いに来ないでください。」

これは大学受験期に通っていた予備校K塾で、最後の授業で配られたプリントに書いてあった言葉である。細かい文言は異なるかもしれないが意味としては大きく外れてはいないだろう。

ひどい言い方に聞こえるだろうか。少なくとも当時の私はこれを寂しいなと感じたものである。

「あなた達がもしも、私の元に来た時は心配になります。努力の末に進んだ未来が満足のいくものでなかったのではないか。過去に戻りたいと思ってしまっているのではないかと。」

そう。私の恩師は「過去なんかを振り返らず、今を楽しんでください。」ということを伝えたかったのであろう。

社会に出てからもこの言葉を思い出すことがある。
私はあまり人付き合いがうまい方ではないので、共同体を離れるとその界隈から一気に疎遠になる。
それは過去を蔑ろにするというよりも、今周囲にいて尽力してくれる人や支えてくれる人に使う時間を大事にしたいからである。

人は一生の間に関われる人間の数は限られている。もちろん縁故というのは大事なものである。ただ少々放置して切れてしまうような縁は遅かれ早かれ切れてしまうだろう。
実際、学生時代の友人で今も交流がある輩は半年ぶりだろうが2年ぶりだろうが昨日あったかのように話せる。

仕事においてもそうだ。
いつまでも過去の自分に囚われていてはいけないし、過去の成功体験を持ち出してはいけない。
今の自分で戦わなくてはいけないのである。そこに過去が付け入る隙など与えてはいけないのだ。

「過去にしがみついて前進するのは、鉄球のついた鎖を引きずって歩くようなものだ。」

ヘンリーミラーの有名な言葉である。

物語の続きはまた次の夜に…良い夢を。

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