不思議な約束
真夏のある日、涼太は近所の小さな公園で遊んでいた。砂場で山を作り、その頂上に木の枝を立てて「お城」を完成させると、満足そうに息をついた。ふと、彼は何かを思い出したように顔を上げた。昨年の夏、この公園で出会ったおばあさんとの不思議な約束を思い出したのだ。
そのおばあさんは毎日公園に来ていて、いつもベンチに座って編み物をしていた。涼太が砂場で遊んでいると、彼女はにこやかに話しかけてくれた。「お城を作るのが上手ね。でも、お城には王子様が必要よね」
涼太はその言葉に驚きながらも、「僕がお城の王子様だよ」と答えた。おばあさんは微笑んで、彼の頭を優しく撫でた。そして、こう言ったのだ。「それなら、来年もここで王子様を見せてちょうだいね」
それ以来、涼太はおばあさんと毎日公園で会うようになった。彼女は優しくて、お話も上手だった。夏が過ぎ、秋が来て、涼太は小学校に上がった。その冬、おばあさんの姿は突然見えなくなった。毎日公園に行っても、彼女はどこにもいなかった。涼太は寂しく思ったが、春が来るとまた会えるだろうと信じていた。
そして今、また夏が来た。今年も涼太は公園に通い続けたが、おばあさんは現れなかった。彼はおばあさんとの約束を果たすために、毎日お城を作り続けた。しかし、涼太の心には小さな不安が芽生えていた。
ある日、涼太はベンチの前で立ち止まった。おばあさんがいつも座っていた場所だ。涼太は目を閉じて、その光景を思い浮かべた。すると、突然、後ろから優しい声が聞こえた。「王子様、今年もお城を見せてくれたのね」
驚いて振り返ると、そこにはおばあさんが立っていた。まるで去年と変わらない姿で。涼太は胸が熱くなり、涙を浮かべながらおばあさんに駆け寄った。「どこに行ってたの? ずっと待ってたんだよ!」
おばあさんは微笑み、涼太の手を優しく握った。「ごめんね。でも、王子様は約束を守ってくれたのね。本当にありがとう」
その言葉に、涼太はただ頷いた。おばあさんは涼太の手を離し、「これからもお城を作り続けてね」と言い残して、公園の向こう側へとゆっくり歩き出した。涼太はその姿を見送り、ふと彼女の言葉の意味を考えた。
翌日から、おばあさんの姿はまた見えなくなった。しかし、涼太はもう不安ではなかった。彼はおばあさんとの約束を胸に、これからもお城を作り続けることを決めたのだ。
それは、涼太にとって一生忘れられない大切な夏の思い出となった。
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