![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/4661743/rectangle_large_2615f6730b721d3bc04eb60f39a156e0.jpg?width=800)
穴の底から
降り止まぬ雨だれが心音に絡みつき、息が苦しい。
声をあげても助けなどこないだろうと、とうに諦め、ほの暗い穴の底で息を潜め、膝を抱えていた。
ようやく降り止んだ雨に気づかぬふりをして、どれくらいたっただろう。
どこか遠くで聞こえる笑い声は、瞼の裏側に張り付いて離れない。
壁からひたひたと染み込んでくる冷たさが、足の親指から巻きついてきて、私の肩を震えさせる。
徐々にこの冷たさにも慣れていくのだろうか。
見上げると、丸くぽっかりと空いた光。
あの向こうにあるのは、誠実な膜を被った青空だ。
這い上がっても、正しさを振りかざした陽の光が、皮膚を突き刺すのだろうと思うと、足が震える。
丸い青空を、藍色の鳥が横切り、陽の粉をまとった羽根が、ひらりと舞いながら、穴の底に降りてきた。
震える私の膝に、そっと乗った羽毛。
僅かなあたたかさが、足の震えを鎮めさせてくれた。
ようやく立ち上がることが出来る。
手を伸ばすが、まだ、あの空には届かない。
声をあげてみようか。
こんな小さな声では、誰も気づいてはくれないかもしれないが。
腹に力を入れ、両足を踏ん張り、空に向かって叫んだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?