Life 線上の僕ら

とてつもなく大きな愛を見てしまった。
ふと瞬間に思い出して泣いてしまうほどに、大きな愛。
あたたかくて、苦しくて、でも幸せで、大事に大事に抱きしめていたい。
そんな、愛に、作品に、出会えてしまった。

前回視聴した「リスタートはただいまのあとで」が添えられた恋愛だとしたら、「Life 線上の僕ら」は、恋愛がメインである。まさしく、BL作品だ。

晃と夕希。
一本の白線の上で出会ったふたり。
学ランをきっちり着込んだ晃と、緩くブレザーを羽織る夕希。一目で異なるタイプだと分かるふたりが惹かれ合うまでに、そこまで時間はかからなかったのだろう。「伊東くん!」と無邪気に駆け寄ってくる夕希に、晃は"息を奪われてしまった"のだ。思い悩む晃に対して「会いたいか、会いたくないか」と至極シンプルな、夕希の問いで恋人になったふたり。この時、夕希の晃に対する感情に、まだ名前はついていけないような気がする。そんな夕希が「好き」と明確に告げるのが第二話だ。冒頭から「俺は、お前を食いたいよ」というモノローグに、強引な壁ドンキス。更には押し倒してキスまで。見ているこちら側の息が止まってしまう。ちょっと待ってくれ。ときめきの大渋滞。白洲迅氏、攻め役最高に上手いな? だなんて思っているうちに、夕希の可愛さが大爆発する。「こっちにも心の準備があるんだよ」なんて可愛いことを言い、「入ったら100万ボルト!黒焦げ感電死!」とお得意の白線をガムテープで作り上げる。きっとそんな行為だって、晃にとっては愛おしさが深まるものでしかないのだろう。「そっちから来てくれないと」とちゃっかりおねだりする晃は夕希と、ゆっくり、だけど確実に、"同じ熱を求め合っていく"。就職をし、共に暮らし始めたふたり。旅行に出掛けた明け方、夕希はベッドを抜け出し晃の落としたZIPPOを探しに行く。そして、朝日をバッグに「砂漠で黄金発見」と笑うのだ。あの、刹那。晃はまたしても、"息を奪われてしまう"。あの笑顔が、わたしの頭からも離れない。「夕希を愛しすぎていて、怖い」隣で寝ていたはずの夕希が居ない恐怖。それはきっと日に日に大きくなり、失うことが怖いなら自ら手放してしまえばいい、という思考に変わっていく。酷い言葉を羅列し、ふたりは別れる。晃が別れを切り出したとき、夕希は変わらず晃を愛していた。「いつか、一緒に行こうよ」「今は忙しくて旅行どころじゃないだろうけどさ、いつか、暇ができたら行こうよ」「いっそリタイアしたあとがいいかな」「60代くらいなまだ足腰元気なんじゃない」「俺どこでもいいよ、晃と一緒なら」"愛している"だなんて直接的な表現はないが、晃への愛が溢れている言葉を投げかける。そんな夕希に向かって、晃は別れを告げるのだ。その後の、ここの、演出が、とても憎い。ふたりが出会った頃のように、夕希は白線の上を歩く。同じ想いをもつ晃へと繋がっていた白線は、パタリと途中で途絶えていた。それを見て、夕希は「あんなに、俺を愛したくせに」と泣き崩れる。そうだ。いつだって晃は強引だった。強引に夕希を愛した。白線から落ちるのも気にせずに唇を奪った時も、外でキスをするときも、その先へ進もうとするときも、いつだって強引に愛していた。そうやって愛されたからこそ、大きくなったであろう夕希から晃への愛は、行き場がなくなってしまったのだ。勝手に愛したくせに、突然その愛を見せてきたくせに、だから俺も愛してしまったのに。それなのに。そんな夕希の感情が痛いほどに伝わってきた。そしてその想いが、アラスカでの再会したあとの行動にも繋がってくる。
オーロラの下、9年ぶりに再会したふたり。逃げるように立ち去る夕希に縋り、晃は「愛してる」と告げる。そんな晃を殴る夕希。その全てが「愛してる」への答えになっていて胸がいっぱいになった。9年だ。9年もあれば晃への気持ちを諦め、新しい人と関係を進めることもできたのだ。他人のように無視をすることもできたし、久しぶりに会う友人のように笑うこともできた。しかし夕希はそれができなかったのだ。それほどまでに、哀しんで、怒って、そして変わらず愛していたのだ。「諦めようとして、でも、無理で。できなかった」と泣く夕希が願ったのは「ずっと離れないで」というひとつの、ささやかな願いである。ひとりでオーロラを見にアラスカまで来た夕希の想い、晃への愛で苦しんだ9年間を思う度に泣いてしまう。そして、再会した夕希へ告げる、晃の第一声、「愛してる」。いちばん伝えたかったことのなのだろう。きっと色々言うべきことがあっただろうに、それでも溢れてしまったのが、あの言葉なのだろう。そう思うと、また泣いてしまうのだ。

全編を通して晃の表情に何度も魅了された。
夕希と手を繋ぐ姿を見られ「恋人?」と姉に問われた晃が「うん、そう」と答える表情、夕希のスーツ姿を見た表情、朝日をバッグに笑う夕希を見る表情、アラスカで夕希を見つけたときの表情。言葉もない、表情だけなのに晃の感情がヒシヒシと伝わってくる。この人はこんなにも夕希を愛しているのだな、と実感させられるそんな表情に胸が苦しくなった。

また、白石穂香を強かに描いてくれたことも、この作品の魅力である。"普通“であるために、言わば利用された穂香。純粋に晃を愛していたその穂香の気持ちは踏みにじられていたのである。当然、ひどく傷つくだろう。しかし、この作品では穂香を不憫な存在として描かなかった。「欲しいものはぜんぶ欲しい」と活発な女性として描き、「やるわよ!離婚披露宴!請求書はぜんぶあんたにまわすから!」と一筋縄ではいかない強かさを強調させた。そして最後には、彼女が望んでいた幸せを手に入れた姿も見せてくれたのである。だからこそ、私は彼女に同情しすぎず、晃と夕希のふたりだけを注目できたのだ。だって、傷つかないわけないのである。通じ合えたと思っていた想いが、一方的であり、それは一生そのままということを後になって知るということは。穂香と似たような経験をした私が言うのだから、あながち間違いではない、と、思う。

40歳。寄り添い合って微睡むふたりの薬指には、ゴールドの指輪が光る。永遠に共に居ることを誓ったのだ。あぁ、遠回りをしたね。だけど、そこに辿り着いたのだね。何度見ても、温かい感情で胸が満たされる。ディレクターズカット版では、ふたりの最期まで見られるらしい。そうか、それは見なければならない。ここまで見たのだから、この大きな愛がどういった形になるのか、見てみたいのだ。

とてつもなく大きな愛を見てしまった。
ふと瞬間に思い出して泣いてしまうほどに、大きな愛。
あたたかくて、苦しくて、でも幸せで、大事に大事に抱きしめていたい。
でも、大きすぎて抱えきれないから、こうやって言葉にしてみた。


遠回りをして手を取り合ったふたりが、いつまでも幸せでありますように。そんなふたりを演じてくれた2人が、時折晃と夕希を思い出して、懐かしさに微笑み合ってくれますように。
私もいつまでも、この大きくて温かい愛を抱きしめ続けていきたい。

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