リスタートはただいまのあとで

私は実写BLが好きである。
BoysLove、通称BLが好きだ。
そのなかでも、とりわけ実写作品を好む。
少し前までは実写と聞いて眉を顰める人も多いように思われたが、「タイBL」という言葉を聞くことが増えた昨今、実写に抵抗を覚える人も少なくなってきたのではないだろうか。

さて、そんな実写BL界隈に身を置いたのはかれこれ数年前。「おっさんずラブ」や「タイBL」が流行する少し前だった。そんな私なのだが、ここ2年ほど界隈から離れていた。明確な理由はないのだが、就活に焦り始める時期と「おさラブ」などを機に実写BL界隈が盛り上がりを見せた時期が重なったのも要因なのだろう。エンタメに没頭する余裕もなかっただろうし、知らぬ間に大きくなった界隈に戸惑いもあったのだろう。
そしてそのまま、今となった。

3月に仕事を変えたとは言え、社会人2年目。
自分の機嫌の取り方を知り、仕事への向き合い方や休日の過ごし方もやっとこさ形になってきた。そうやって、少し余裕が生まれた休日。兄が契約したNetflixをでたらめに弄っていたら出会ったのが、「リスタートはただいまのあとで」である。

主演は古川雄輝と、竜星涼。
うん、知っている。
ポスターにも見覚えがあった。
遅刻を恐れて早くに会社の最寄駅に着いてしまったある日、遠回りをしようと離れた改札を出たところに貼ってあったポスター。観に行こうかと思いつつも、記憶の片隅に追いやられていた作品だ。
うん、見よう。
再生ボタンを押すのには時間がかからなかった。

結論、とても良かった。
とても好きだった。
こういう作品を、ひとりで、ひっそりと劇場で見るのが好きだったのだ。
そういったことを思い出させてくれる作品だった。

この作品はBLである。しかし、Loveがメインとは思えなかった。互いの存在を機に目を逸らしていたものと向き合い、乗り越えていくなかで生まれた副産物がLoveであった。そういった印象の作品である。メインテーマが別にある作品において、組み込まれた恋愛を「添えられた恋愛」と勝手に呼んでいるのだが、本作はまさしく「添えられた恋愛」に近しい。恋愛はあくまで副産物、メインは光臣と大和、ふたりの人生の岐路。私はそんな感想を抱いたのである。
仕事に挫折し、故郷に帰ってきた光臣。はじめは「光臣は東京で不憫な目に遭ったのだろう」と思っていたが、次第に「これは光臣にも原因があるぞ」と分かってくる。「店を継いでやってもいい」という言い草に、頼まれたじいちゃんの畑には堂々と遅れてやってくる。振る舞いも不遜だ。しかし憎みきれないのが光臣である。文句を言いながら畑にはきちんと来るし、頼まれた仕事はやり遂げる。そして、そんな光臣を時に注意し、時に認め、いつだって隣で笑っていたのは大和だった。故郷に戻ってきてから何かを感じる度に、そばに居たのは大和だったのだ。そんな大和に惹かれていったと言われても、不思議ではない。想いを寄せられた大和も、次第に光臣を意識していく。もしかしたら想いを寄せられる前から、どこか特別な存在だったのかもしれない。「笑顔」で作っていた壁を光臣の前では取り払い、自らの出生について向き合うときも、そばに居てほしいと願ったのは光臣だった。共に過ごすうちにふたりの間で生まれていた愛を、私は目撃してしまったのだ。

特に好きなシーンが3つある。
ひとつめは、役所で書類を待つ場面だ。「少し時間かかるって」と光臣の左側に座った大和が「あのさ、光臣が右にいるのが変な感じするな」と笑う。「俺もおんなじこと思ってた」とふたりは席を交換する。大和が運転席、光臣が助手席に座り、ふたりはいつも車に乗っていた。
ふたつめは、ホテルで光臣が想いを告げたあとである。「少し待って」と答えた大和は横になる光臣の背中に抱きつく。その後に「抱きしめていい?」と聞くのだ。そんな大和に、光臣は「抱きしめてから言うなよ」と返した。
最後に、キスシーンである。公園を後にしたふたりは、戯れる家族連れや子供たちを遠目にのんびりと歩く。そのときに、大和は光臣の唇を奪うのだ。「俺にも愛せるかな」と優しく微笑んだあとに。それが、光臣の告白への答えだった。
各場面、なぜ好きなのかは分からない。分からないが、全て涙が出てくるほどに愛おしくなってしまった。日常の何でもない場面に見える愛に、耐えられないくらい胸が温かくなる。
あぁ、あぁ、こういうものが見たかった。
こういうものが好きだった。
愛は、大仰しいものではないのだ。
私達が気付かないだけで、何気ないところにあるのだ。
この世界でどこかにありそうでなさそうな、でもきっとある、そんな誰かの人生、の、一部。
それを"見てしまった"。
ふたりの間に"生まれてしまった"愛を"見てしまった"。
そんな作品が堪らなく好きだったのだ。
この作品を通して久々に気付かされた。

彼らは互いの肩に頭を寄せながら、安心したように眠り、電車に揺られる。「好き」だとか、恋人だとか明確にされなかったが、互いに特別となったふたり。きっと彼らの今後は幸せばかりではないだろう。しかし、私が見てしまった一時は、彼らは確かに幸福であった。その温かさを抱きしめながら、私は、彼らの幸せを願っていくのだろう。

「リスタートはただいまのあとで」は光臣と大和の長い人生の一部分だ。ふたりの間に生まれた愛も、そんな人生の一部。私はそれを目撃してしまったひとりである。ただ見てしまっただけなのに、とても幸せな気分を貰えた。私はこれからも、この世界のどこかで存在するであろう人々の目撃者でありたい。人生の一瞬を、生まれてしまった愛を見るために、作品を見続けるのだろう。そしていつの日か、光臣と大和、彼らにもう一度会えるとしたら、あの日から続く彼らの日常を覗かせてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?