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朗読台本|透明な僕は空を舞う

白と透明は違う

透明はきっとずっと、汚れない

「どうぞ、」

コツ。と音を立てて君が置いたコップに
半分くらいの水が入っていて
ぼんやりとそれを眺める。

君は「何? 泣いてるの?」と聞いてきた。

「そんなわけないよ」
そう返すのに時間がかかったことに自分でもハッとする。
泣いてるつもりなんて、これっぽっちもないのに。

彼らはいつも真っ白であれと言った。
言われた通りに、この白く豊かな羽根で空を飛べと。
だから僕は、
この背中を埋め尽くす羽根を
一生懸命に育てた。

雨に濡れて
泥まみれになって
風にさらされて
どんどん薄汚れて重くなるそれを
僕は精一杯大きくなれと育てた。

でも、ふと我に返る。
こんなものが欲しいと思ったことがあったのだろうか。
たぶん、そんなこと……
どうだろう? 記憶にはない。
気付いたらそこにあった。

ひとは、
このずっしりと重くのしかかる羽根を
称えて、
羨んで、
妬む。

背負ったこともないのに
高く飛べることを
まるで自由であるかのように言った。

空を飛びたい。

そんなこと簡単に言ってはいけない。

落ちる恐怖に囲われて
大空に目を背けたくなる日々が
しあわせだって?
そんなこと、僕には言えない。

「透明はいいよね」

君はあの日僕にそう言った。

「なんで?」

水は何を入れても
いつだって透明なことを忘れないでしょ?
いろんなものを吸収するけど
自分が透明ってことを忘れてない。

水も、空気も、空も
みんな透明だよ。
だから何があっても変わらない。
それって自分を忘れてないのよ。

僕はコップの水を飲んでから
立ち上がり空を見上げた。

広く穏やかな空は
いつの間にか赤く染まっていた。

夜が来る。

僕は重い羽根を下ろし、
空に舞う一番星を掴んだ。


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朗読シナリオ 作品一覧&ルール
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