2023年までで最もよかった音楽の1つ

友人達が2023に聞いた曲のベスト10を決めて紹介する記事を書いていて、確かに同じ曲でもそれに感じるものというのはその時々で変わるので、書き記しておくのは大事だと思った。



a子 - 「情緒」(理芽Cover)

現実に正直な僕は悪くない
鏡の中では綺麗に見えないの

a子-情緒

群衆を意識しない無造作な醜態晒すわけにはいかない
上手くいけない人生ね

a子-情緒

2023年も鬱に苦しんだ。最近は小康を得てきて、この情緒について前ほどの共感もなくなった。けれど、この曲が僕を代弁してくれているかのような感覚にあったことは忘れないようにしたい。鬱の人間が必ずしも理解者を欲するわけではないが、この曲を繰り返し聞いていたことは事実だ。

サカナクション -「Human」


サカナクションは長いこと聞いていて、最近の曲もよいものが多いが、今はHumanをよく聞いている。

僕らになにが足りないかなんてわからないけれど
何かに そう何かに背中を押される時があるんだ
心が揺れてたのは夜の風に吹かれていたから
誰かに そう誰かにこのことを伝えなきゃ駄目なんだ

サカナクション-Human

サカナクションはよく自分の現象について世界側に理由を求めることがある。この曲では、夜の風に吹かれていたことが自分の情緒に影響を与えていると理解しているが、そこからさらに一歩踏み込んで、誰かに伝えなきゃ駄目だという意志の領域に言及しているのがとても良い。

YACA IN DA HOUSE - 「無期限活動」

ワニのヤカは結構初期から聞いているVirtual Singerだ。

姫野パイセンにはもう会えないし
Mac Millerの新譜は聴けないしで
時代の終わりを見てるみたいだ
今日この頃 まっ平

YACA IN DA HOUSE-無期限活動

フィクションの中で姫野先輩が死ぬこととMac Millerが死んで新譜が発表されることが無くなったことを同列に語り、しかもそれを時代の終わりとまで言ってしまうこのナイーブさを正直にさらけだしているのが好印象だ。
そしてナイーブながら、「だから僕らは行くしかないんだろうな」と真っ当な結論を出すのも、希望があっていい。

あっこゴリラ - 「ゲリラ×向井太一」(KMNZ LITA Cover)

個人的には2023年はKMNZの年だった。子供っぽいのに子供の頃と連続していないLIZと大人っぽいのに子供の頃を忘れられていないLITAというキャラクターの対比が素晴らしく、LIZが引退したことでこの対比をそれぞれのCoverで見られなくなったことは悲しい。

星野源 - 「Pop Virus」

星野源も非常に長く愛しているアーティストの一人だ。その中でもPop Virusは名曲だと思う。

音の中で君を探してる
波の中で笑いながら漂う
今の中で君を愛してる
刻む一拍の永遠を
渡す一粒の永遠を

星野源-Pop Virus

この歌は音楽の人と人とを繋げる力を信じながら、最終的には音楽の存在しない一瞬の世界に永遠を見出す。このバランス感覚は、どっちつかずだということもできるが、心地よいものだ。

tofubeats - 「REFLECTION feat.中村佳穂」


tofubeatsも中村佳穂も好きなので、当然好きだった。椎名林檎が宮本浩次のことを名楽器と比喩する文章がバズっているのをみたことがあるが、中村佳穂は楽器と比喩するには程遠い。生きているものとして、まるで一対一のコミュニケーションを取っているかのように感じられる歌を歌う。竜とそばかすの姫も2023年に見たが、歌はとても良かった。

webnokusoyaro - 「店閉まるの早い」

webnokusoyaroは一見するとふざけているだけのラッパーに見えるが、情緒的なものを確かに含んでいる。悩み事を聞いているふりをしながらアジフライの美味しさで頭がいっぱいになるのは、相手を蔑ろにしているということではない。むしろそこに対等な関係がある。
「歩きながら酒開けて走ろうか」という歌詞もいい。この一文で、情景も情緒も、一定の展開を持って伝わるのが凄い。

ハヌマーン - 「幸福のしっぽ」

一番好きな曲は何かと聞かれると頭によぎる名曲。ラスサビのラストでそこまで全く登場していなかった母親に「ねぇ母さん」と叫ぶのは衝撃的で、僕には効果的だった。
「ねぇ母さん」が無ければ凡庸な売れないロックシンガーのボヤきに見えないこともないが、これがあることによって一気に射程が伸びる。桑田佳祐の白い恋人達の詞が「涙」で終わるのも僕は好きだ。最後の最後で急に具体に落とし込む手法はとてもいいと思う。

ただのCo - 「初音ミク/ディアミー」

ボカロを一曲ぐらい入れたいなと思った時、思いついたのがこの曲だった。
この人の曲にはどこまで行っても子供らしさがある。それはナイーブさとはまた違って、子供の頃感じていたことと連続しているということだ。
何も持っていないが幸せだった頃の感覚を持ったまま、何も持たない不幸な大人になること。そこから始まる幸福もあるんだろうと思う。

group_inou - 「STATE」

group_inouは最も好きなアーティストで、活動休止していたのだがつい最近無言で復活した。
新曲もやはり良かったが、私はこのSTATEかMAYBEが傑作だと思う。

過ぎ去る時間に焦らずしかし
色褪せる前に行け
 
自分は他人の中の他人 それすら忘れ
人がそれ思い出す時に 人がそれ思い出す時に
記号は既に頭の中に

group_inou-STATE

良すぎる。3分をすぎたあたりからの疾走感と歌詞はすべていいが、その終わりを引用した。
group_inouはBLUEの「光で気づいた蜘蛛の巣」に代表されるように叙事的な詩に定評があるが、STATEのような観念的で哲学的な範疇においても実力がある。これからの活躍にも相当期待している。

誰かが誰かについて、彼の曲は彼が作曲した時点と同じ年齢の時に聞くといい、と言っていたのを見たことがある。それは本当らしかった。これから僕もどんどん趣向が変わっていくんだろう。今はよいと思わないけれど、いずれよいと思うようになるもの。今はよいと思うけれど、何がよかったのか分からなくなるもの。音楽は音の連続だ。けれど、僕はその音楽を聴く時、その一瞬に生き、その一瞬を愛することしかできない。それでいいと思う。

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