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人に「ツいてる」と言うこと

 「ツいてる」「ラッキーだ」または「ツいてない」「運が悪い」というような言葉を人は日常的に使う。それは何もギャンブルに特化した用語ではない。
 例えば、スーパーにお惣菜を買いに行ったらたまたま目の前で半額シールが貼られたり、デパートの福引で4等の商品券500円が当たったりしたら「ラッキー♪」と思うことだろう。
 ことギャンブルに於いて運という要素は結果に対して非常に大きなシェアを占めており、種目によってはほぼ100%運というものもある。
 よってギャンブルで勝った人に「ツいてるね」「ラッキーしたね」と声をかけることは極めて自然な対応であり、本来そこに異論はないはずなのだ。
 それが対人ギャンブルでなければ…。

 私はギャンブルの中でも特に麻雀を愛しており、頻繁にフリー雀荘に行ったり友達とセットをしたりする。ここ数年は五等麻雀という種目をよく友人と遊んでいる。
 五等麻雀は三人麻雀の亜種なのだが、その特異なゲーム性は天鳳や雀魂のような通常の三人麻雀とは大きくかけ離れており、いわゆる祝儀と言われる要素が大きな比重を占める射幸性の高いルールになっている。

 宣伝する義理はないのだがセット面子筆頭である友人が経営する五等麻雀専門店のリンクを貼っておく。五等麻雀未経験の方はぜひ一度体験してみて欲しい。


 我々のセットはこのルールを更に射幸性の高いものにカスタマイズした超インフレ祝儀麻雀であり、一局で100〜200枚程の祝儀が動くこともザラだ。
 そして今回のテーマに大きく関わってくるルールが「煽りアリ・三味線アリ」というものだ。三味線とは簡単に言うと嘘のことである。
 先に「三味線アリ」の例を示すと、
・立直を受けて「ベタオリします」からのロン
・配牌を開けて「ぐちゃぐちゃの3シャンテン、終わり」からの2巡目立直
とまぁフリー雀荘なら基本即出禁、良くて厳重注意になるような台詞だがルール上全く問題ない。「今日も良い天気ですね」くらいの世間話だと思って聞きながすのが吉。

 問題は「煽りアリ」のルールである。
・役満をツモって裏が乗らず「はぁ!?ツカなすぎ」
・横移動で飛んだ人に対して「勝手に飛ぶな!」
とこのあたりは初歩中の初歩。
 酷いものになると
・5ラス分負けてる人が跳満ツモっただけで「ツキすぎ」
・10ラス分負けてる人が5順目に先制立直をかけただけで「すぐテンパるやん。運王。」
・20ラス分負けてる人がやっと初トップ獲ったら「結局○○さんの一人勝ちやん。運神。」
など、運やツキという言葉の意味をググって来いと言わんばかりの煽りが飛び交うが、ルールの範囲内なので全く問題ない。

 問題ない…わけがないのである。
 これがパチンコや競馬のような胴相手のギャンブルであれば勝ち=ツいてるの構図が基本的には成り立つので「ツいてるね」と声をかけることはなんら問題ない。
 また、チンチロやバカラのように基本的に実力の介在する余地のない所謂「運ゲー」もまた同様に勝ち=ツいてると言って差し支えないだろう。

 しかし麻雀やポーカーのような対人ゲームでは誰かが勝つ=誰かが負けることになる。負けてる人が勝ってる人に対して「ツいてる」と言うならまだしも、1番勝ってる人がこの台詞を言ったり、ましてや負けてる人に対して言うことがトラブルの元となるのは言うまでもない。
 更にこれらのゲームは実力の要素が大きく介在するため、例え勝っていてもその額によってはツいてないと感じる人がいても不思議ではない。自分より実力が劣っていると感じている人の後塵を拝している場合は尚更だ。

 ついでにポーカーの例も出しておこう。
 私がシンガポールでポーカー専業をしていた頃の1シーン。
 レートは10/20SGD(当時の800/1600円)。とても仲が良かった中国人専業のリュウと初見のアフリカ系外国人のHU。
 4ベットポットでフロップに進み、J54で♠️が2枚の比較的ウェットなボード。リュウの小さなCBにアフリカ系がダブルポットのチェックレイズオールイン。リュウが少考してからチップを投げ入れる。
 ターンリバーに更に2枚の♠️が並ぶ。開かれたアフリカ系のハンドは♠️待ちの77。リュウが怒りながら♠️のないAAをショウした。

 僥倖で650BBポットを得たアフリカ系の左に座っていた私は笑顔で「You're lucky !」と声をかけると彼はムスっとした表情で「What’s lucky?」と返してきた。
 エクイティ15%のオールインに勝ったことは幸運以外の何物でもないのだが、この賞賛の台詞に関しては私のミスだ。
 もしかしたら彼はここ数日のポーカーが絶不調だったかもしれない。バカラで大敗した後にポーカーテーブルに着いていたかもしれない。
 何より、ポーカーという競技が実力100%で勝って当然という絶対の自信を持っている(かもしれない)彼に対して「ツいてる」という言葉をかけたことは、彼に対する最大の侮辱だったのかもしれない。

 麻雀もポーカーも、運と実力両方の要素が拮抗しているゲームである。人によってその比率の考え方・捉え方は様々であり、運ゲーと思っている人もいれば実力ゲーと思っている人もいる。
 「ツいてるね」=「実力はうんちだけど運だけはあるね」と捉えられる危険性もあることを念頭に置いて、対人ゲームをプレイする皆様には細心の注意を払って言葉を選んでいただきたい。

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