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「強がりな泡と水っぽい記憶」


昔から人の事を覚えるのが苦手だった。


それは俺の記憶力なのか
覚えられていない人との関わりの薄さなのか。


冬になってもクラスの中には
苗字しか知らない人が4~5人は居た。


それでも俺は高校生になって、
放課後マックやカラオケに行って。
そんな恵まれた平凡な青春を謳歌している時


「あ、あれ去年同じクラスだった○○じゃん。
なぁ。…あれ、あいつの事覚えてないの?」


…なんでだろう。覚えてない。
友達が言うには割と仲が良かったらしいのに。


「…んいやぁ~ダメだ。わりぃ。覚えてねぇや。あいつがどんな声だったかすらも記憶にねぇ。」


「マジかよお前。

結構仲良かったと思うんだけどなぁ。」




そんなことが何回かあった。




ワンピースの有名なシーンで
Dr.ヒルルクが死に際に言う名言がある。


「人はいつ死ぬと思う?
人に…忘れられた時さ。」


数々の人を励まして感動させたこの言葉。
俺だって共感して、胸を打たれた。

でも、だとしたら。

だとしたら俺は
一体何人死なせているんだろう。

自覚も無く罪悪感もなく記憶もない。
軽い、形すらない寂しさだけが残る。
まるで泡のような。


心に浮かぶ小さな泡の存在に気付いた時、
せめてこの泡のことだけは覚えていたいと
割れないように両手で包んだ。


それでも。
気が付いたら。


いい眠りについた時
美味しいご飯を食べた時
好きな曲を聞いた時
新しい友達が出来た時


そんな幸せな日常の瞬間。
ふとした時に割れていた。


大切にするつもりが
割れる瞬間すら気付かずに
知らない間に泡は
目の前の形ある幸せにつつかれていた。


後悔や悲しみ。
そんな負の感情なんかじゃない。
もっと優しくて、寂しい。


そんな 不思議な


感じ取らなくちゃいけない感情。


でも、なんだろう。
また忘れてしまう気がする。


消えかけの泡沫だけが
その泡の存在を残していた。



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