連載小説「ぬくもりの朝、やさしい夜」8

投稿8  ーさくちゃんあすちゃんペアー

「さくらちゃんこんにちは〜」
「あすみちゃんこんにちは〜」

お屋敷にやって来る子どもたちには
そうやって名前を呼んであげるように
凛さんから言われている。
幸い子どもたちが少ないから
覚えるのにはそんなに時間がかからなかったし
何年もいる子がほとんどだから
名前どころか性格までも
なんとなくだが把握できている。

今日1番に来たのは
「さくちゃんあすちゃんペア」
ちなみにこの呼び方は私が勝手に決めている。
2人は必ず一緒に来るし、お屋敷でも常に一緒だ。互いを「親友」と呼び合っている。

小学生高学年の女の子にとって「親友」という言葉はまるで高級ジュエリーのように華々しく通りすがる誰もに見せたくなる、そんな言葉だと思う。それにそのジュエリーはお揃い。2人でひとつ。「友だち」がお揃いの折り紙の指輪なら、「親友」はゴールドの指輪。重みが違う。

さくらちゃんは小学6年生とは思えない落ち着き方をしている。きりっとした目をしていてふと目が合うと睨まれているように思えてたまにゾッとしてしまう。あまり自ら進んでは話をしないけれど、卓也とみんなでドッチボールやおにごっこをしてるときは無邪気な子どもらしい笑顔をする。でもそんな時間が終わるとまた黒猫のような瞳に戻り、ずっとあすみちゃんのそばにいる。

「さくちゃんあすちゃんペア」
2人は同じ制服、同じ三つ編みおさげでも
ひと目みただけでわかる。正反対だ。

あすみちゃんは明るくてとてもおしゃべりだ。
宿題の時間も私にすぐ話しかけに来る。
私と話がしたいというよりは
私くらいの歳の人と話したいという感じがする。
「佳奈ちゃんの周りに彼氏いる人っている?」
「佳奈ちゃんは洗顔の後『パック』ってしてる?」
そんな話ばっかりだ。

でもあすみちゃんは驚くほど勉強ができる。
天才肌とはこのことかと思う。
さくらちゃんが教えてくれたのだが、どうやらあすみちゃんは教科書を端から端まで全て一度読んだら覚えてしまうそうだ。凛さんにそのことを話すと「映像記憶ができる子なのね」と言っていた。そのときからわたしはあすみちゃんを見るたびに自分の今この瞬間も映像記憶されているのかと思い少し緊張する。

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